約束だよ。
また明日。
ねぇ、指切りをしよう?
+雨上がりの夕暮れ+
随分小さくなった水溜りに茜色が映る頃。
両手に取り込んだ洗濯物を抱え、その太陽の匂いにエドは思わず相好を崩した。
文字通り山とあった洗濯物を全て洗い干し終えた頃には正午をやや過ぎており、乾くかどうか些か心配ではあったのだが結局それも杞憂に終わった。
あたたかな太陽の下、風に揺れていたバスタオルは特にふかふかで、長く顔を埋めているとうっかり寝てしまいそうな程に心地良かった。
窓という窓を全て開け放った室内はすっかり外と同じ色に染まり、遠くからは家路につくのであろう子供達の笑い声が聞こえてくる。
バスタオルから太陽の匂い。
笑い声と、夕焼けの帰り道。
最後の一抱えを既に結構な量になっている洗濯物の山の一番上に落とし、離れてしまったぬくもりに少しだけ淋しさを覚えた。
そういえば、と思い妙に気配の薄い室内をぐるりと見回せば、その人は沈むようにソファに座っていた。
「少尉?」
小さく呼んでみるものの、返事どころか微動だにしない。
なるべく足音を抑えて近付けば案の定、閉じられた瞳と規則正しい息遣い。
「…しょーがねぇなぁ」
言葉とは裏腹にその表情は穏やかで。
何だかんだ言いつつも結局自分の良いようにさせてくれるハボックに、感謝とも愛しさともつかないような笑みを浮かべて手を伸ばす。
そうしてソファの上で項垂れているその大きな手の下に自分のそれを滑り込ませ、指切りのように小指を絡ませた。
「…あったかいなぁ」
指先の温度も。
夕陽の色も。
子供達の笑い声も、何もかも。
それはなんて事のない日常。
そしてそれが、極上のしあわせ。
そうっと絡めた指を解き、手をどける。
どうしようか逡巡した後、エドは山積みの洗濯物の中から真っ白なバスタオルを一枚引っ張り出した。
「…しあわせそうな顔しやがって」
笑いながらそんな悪態を吐いて、広げたそれをふわりとハボックに着せ掛けた。
そしてついでに頬に一つ口接けをすると、エドは夕食の準備をするべく、キッチンへと向かった。