今日も明日も明後日も
師走も終わりに近づいて、年の瀬が迫る頃。
クリスマスから大晦日にお正月。イベント目白押しの冬休み到来である。
恋人の1人もいれば(というか複数なんていらない)、凍えるような気温とは裏腹に心温まる思い出作りに励める短いながらもとっておきのホリデー、のはずなのだが。
今年の冬も。
というか今日も今日とて。
なんというか案の定、神崎京介の扱いに例外などなかった。
「死ぬ…!」
大袈裟に、といっても本人は至極大真面目な呟き。
ようやく解放された神崎は、相変わらず姉静のせいで寛ぐに寛げない実家の自室のベッドへとダイビングした。
もう過去の自分の部屋の面影などありはしないが、ベッドの弾力と枕の柔らかさに変わりはない。よって目を閉じて感触に癒しを求める分には問題はない。
めでたく補習などひとつも取らずに冬休みに入ったというのに、クリスマスの余韻に浸る間もなく神崎は実家に強制送還されていた。
別に彼女の一人出来たからといってイベント事を全て網羅しようなんて面倒な事微塵も思っちゃいないが(大体にしてそれを笑って許す人じゃないのだ彼女の兄は)、それでももう少し余裕と幸せを与えては貰えないんだろうか、俺は。
そういう星の元に、というか家庭に生まれてしまったのだ仕方ないと独り自分に慰めとも諦めともつかない言葉をかけて涙混じりの溜息を吐いた所で、上着のポケットに入れていたケータイが震えた。
「あ。」
そういえば存在を忘れていた。姉に引きずり回され、家の中の雑事を押し付けられている間はケータイなど気にかける暇もない。
短く震えて止まったそれは多分メールだろう。神崎はうつ伏せに寝転んだまま上着から引っ張り出しケータイのディスプレイを見た。
そこにはやはり"メール1件"の文字。そして、
"不在着信26件"
「……は?」
神崎がケータイを無視していたのは、ほんの1時間やそこらであって決して丸一日とか一週間とかそんな大袈裟なことではないはずなのだが。
誰かよほどの急用が、と思いつつ先にメールを開けて見た神崎は差出人を見て少々の嫌な予感を覚えた。
その差出人とは、姉と同じぐらい容赦なく神崎に接してくる先輩、君島である。
いやでも先輩だっていつもいつも阿呆なメールしてくるわけじゃあ、と本文を呼び出せば。
『キョロ介のバーカ!。・゚・(ノ□`)・゚・。』
である。
何事ですか。
思わず答えの返らないケータイに問いそうになった神崎は、はたと気付いて着信履歴を確めた。
そこに並ぶのもやはり"君島嵐士"の名。
始めは数分おきの着信がそのうち同じ時間を並んで示し始めるのは、彼が終いには秒刻みにかけてきていた証拠だろう。
どうしたものかとケータイのディスプレイをじっと見たまま固まっていた神崎を我に返らせたのは、やはりケータイだった。
ぶるぶると手の中で震え始めたケータイに、神崎は反射的に通話ボタンを押した。
「はい、もしも…」
『神崎のアホー!!』
「先ぱ…」
『俺が何回かけたと思ってんだよ旦那様のお帰りを三つ指ついて待ってろとは言わないけどなぁ!』
「まだ引っ張るんですかそのネタ…」
『一生引きずるに決まってるだろそんなの!何で出てくれないんだよすぐにー』
「いや、姉さん達に引き回されてたんで…」
『そこは愛の力で気付け!』
無茶言わんで下さい。
たとえこの着信が蓮見だったとしても気付かない自信があるというのに。
「それで、何の用だったんですか?」
『あ、神崎午後暇?っていうか暇にして』
伺いと見せかけて半ば命令である。もう慣れたものだが。
『氷浦が遊びに来るって言ってっから、地元バスケしようぜ』
「バスケ?」
『地元民を俺らで容赦なく負かそう☆大作戦』
お茶目に言おうがなんだろうが、要求にあまり変化はない。
「新春バスケ大会はどうしたんですか?」
『今回は年忘れバスケ大会、道場破り編。』
なんだかいらん装飾がついた、と思いつつもうツッコミに疲れてきた神崎は諦めてベッドの上に身を起こした。
「っかりました」
どうせ拒否権など無いのだろうし。
『さっすが神崎〜。詳しくは後でメールすっからー』
ハートマークだの音符だの飛んでいそうな口調でそう告げて、通話は途切れた。
終話ボタンを押して、再び着信履歴を確認する。
いっそ全件消去してしまおうかとも思ったが、これを氷浦先輩に見せればちょっとはあの人にブレーキかけてくれないだろうかと僅かな希望をもって神崎はそれを思い留まった。
例えそれがとても儚い希望だと分かっていても、そうでも思わないと遣る瀬無い。
初詣ではもう少し穏やかな明日が欲しい、とか願ってみようか。叶わなそうだと思う時点で負けている気がしないでもなかったが。
つらつらと思うに留め、神崎は再び仮初の癒しを求めて可愛らしい枕へと頭を埋めた。
ひつじの文を褒めて下さったすいさんとひーさんへ。
煽てに滅法弱いタイプですスミマセン。笑
061223