sleeping cutie
「あ」
「あ」
意図せず重なった音にお互いに目を合わせたまま苦笑い、その口元に人差し指を一本立てた。
静かに、と。
足音を極力消して、リナリーの傍らに座る相手の前まで近寄る。
「…いつから?」
「私が来た時にはもう、」
一度言葉を途切れさせ、私は少し前から、と付け足す。
やや寒そうに手を擦っていた彼女の様子を見ているから、その"少し"とやらがどれくらい前なのかなんて追求すべきではないのだろうとラビは悟った。
リナリーの隣りには少年が1人。しゃがみこんでラビはその顔を窺った。
俯いたままの顔には白銀の髪がかかって、薄暗い談話室の中で余計に影を落としているせいかその表情がいつになく暗く疲弊して見えた。
思いすごしならいいのに。
彼の身体にも、まして心にも、出来る事ならじくじくと痛み続けるような傷みなどつかないで欲しいと願うのは大分我儘な話だけれど、きっとすぐそこに座る彼女は僅かにそれを願い、叶わずともそれを分かち合いたいと思うのだろう。
なら自分はどうだろう。
少なくとも痛いなら、慰めて、それを癒してあげたいなぁ、と思う。そこに少々不純な気持ちが混ざるのは大目に見てもらうとして。
「それでどうする?コレ」
「運んであげようかなぁ、とも思ったんだけど…」
「ああ…リナリーはやめておいた方がいいと思う」
女の子に運ばれるなんてとか、彼女のお兄さんのいらん感情に触れないようにとか、色々な理由を思い浮かべて苦笑する。
「じゃあ、ラビ」
「うん。頼まれるさー」
へらり、と笑って頷くとリナリーはほんの少しだけ影の差した顔にラビと似たような意味の薄い笑みを刷いた。
「アレン君に変な事しないでね」
「ええー…そんなに信用ない?」
否定も肯定もせずに、リナリーは『お願いね』の一言を告げて踵を返した。
その背を見送り暗い部屋の中に残されたラビは、今までリナリーがいた場所に座って未だ眠る少年を覗き込んだ。
よく眠っているようだから、ちょっとやそっと動かしたくらいでは起きないだろうと勝手に判断して膝の裏と背中を支えて抱き上げる。意識のない身体は少し重く、その分なんだか温かい気がしてまた少し笑う。
「人に忠告する時は具体的に言わなきゃダメさ」
ね、と返事のない同意を強請るように腕の中の少年の額に唇を寄せる。
お伽噺の、子供じみたキス。
我が愛しのスリーピングビューティはこんな優しいキスじゃあ起きないことなどお見通しだから、とラビは今度は唇にもうひとつ甘い甘いキスを求めた。
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