『 Are you hungry or thirsty ? 』
Roy*Edward
潤いは一瞬。
満たされた、と思った次の瞬間には喉を乾されたような感覚。
それが日常だから、もう慣れてしまったけれど。
もうどれだけ食事をしていないだろう。
ちょっとやそっとじゃ餓死なんてしないし、と放っておく事が多いから自分でもどれだけ時間が空いているのかが分からない。多分、何ヶ月か放っておいても平気なんじゃないかとは思う。ただ、度を超すと自分でも何をしでかすのか分からないから適度に思い出さないといけない。
そんな事を考えるのは大体、ロイ・マスタングに会いに行く時だ。
「やあ、久しぶりだね」
旧友を迎えるような顔で笑う、見た目は自分より随分と年上の相手。
彼が、ここ数年の非常食だ。
「久しぶり…どのくらいぶり?」
「ざっともう2ヶ月は経ったよ」
「そっか…」
そんなに、というべきかまだそれだけ、というべきか。自分の中の時間の概念はとうに狂ってるのでなんとも言い難い。
でも相手にとってしてみれば明らかに『そんなに』の域に達していたらしい。
「いい加減空腹だろう?」
「…うん…そうなのかな」
喉が渇く、と呟くと「やはりな」と苦笑された。
「君は空腹の時はいつもそう言う」
「そうだっけ」
「君よりは記憶力があるよ、私は」
細かい所を覚えていると言う点ではその通りだろう。エドは仕方なく同意した。
「手っ取り早く腕でいいかな?」
「ああ」
頷くと、ロイは手近にあったナイフで躊躇いもなく関節と手首との丁度真ん中辺りに刃を滑らせた。
鮮血が床に零れる前にとその傷口に口をつけた。
そう大量に要るわけでもなく、数える程度喉を鳴らしてエドはロイの傷口を仕上げとばかりに舌でなぞった。
止血の効果があるから、そうするだけで傷口から膨れ上がるように出ていた血はあっけなく止まる。
「……サンキュ」
「どういたしまして」
紳士的に微笑んだその顔が少々蒼褪めているのは仕方あるまい。溜息を付いてエドはその顔から視線を逸らした。
もうやめようか。
ふと頭を過ぎった思い。
見知らぬ誰かから無作為に搾取するのと、見知った相手から同意の上で与えられるのと。後者を選んだのはエドだけれど。
確実に相手の生命を少しずつ喰らっているのだと思うとやはり気が滅入る。それは、相手が好意の対象であればあるほど。
「浮気の算段は相手のいないところでやるべきだよ?」
「………はぁ?」
揶揄の言葉の意味が掴めずエドが胡乱げにロイを見やると、案の定にやりと意地の悪い表情がそこにある。
「君は考えが顔に出やすいな」
「?」
何を意図しているのかさっぱりだ、と顔に書いてあるのは自覚しているが。エドは顔を顰めてロイを睨んだ。
その射るような視線を受け流し、ロイはエドの顎を掬い上げてキスをひとつその唇に落とした。
「私がここにいる限り、君を満たすのは私でありたいと思っている」
喉も腹も、身も心も。
「捨てないでくれ、と泣いて頼もうか?」
「……ウゼェ……」
いらん、と心の底から告げればまたいっそう深く笑ってもうひとつキスが寄越される。機嫌を取るような触れるだけのそれに絆されて、エドも諦めのようにそれに応えた。
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