『 likes and dislikes 』

Kaito*Shinichi & Ai



「新一」
「嫌だ」
「新一!」
「嫌なもんは嫌なんだよ!」
「好き嫌い言ってる場合じゃないだろ!?」
「言うに決まってんだろ!!」
「自分の生死の問題なのにかよ…っ」
 泣きそうな顔で快斗が詰め寄る。どっちが先にキレたのかなんてもうお互いに覚えていなかった。
「なんでそんなに嫌がるんだよ!?」
「お前だからに決まってんだろ!」
「だから好き嫌いするなって言って…」
「そのくらいで止めてくれないかしら?」
 涼やかな声の乱入者に、我に返って快斗は少し潤んだ目元を擦った。
「哀」
「いつまでやってるの?もう夕方よ」
「コイツがしつこいから」
「新一が頑固だから!」
「どっちもどっちよ」
 どちらの言い分もすっぱりばっさり切り捨て、彼女は幼い姿のまま似合わぬ溜息を吐く。
「でも…そうね。黒羽君、いい加減諦めてあげたら?」
「無理」
 哀の軽い提案に即答して、快斗は僅かに顔を顰めた。
「哀ちゃんは新一の味方?」
「どちらかといえば工藤君寄り」
「………っ!」
 事も無げに頷いた少女に、快斗は叫びかけた言葉を無理に呑み込んで喉を詰まらせる。
 詰めた息をゆっくりと吐き出して感情を押し込める。どうしたって冷静でいられないのは快斗自身よく分かっていた。
「…とりあえず今日は帰る」
 落ち着いた声は強い意志を湛えたままで、新一も思わず同じような溜息を吐いて快斗を見送った。
 それに哀が微かに笑う。
「お疲れね」
「…まーな」
 分かっていたけれど。きっと快斗ならそう言い出す事は。
「まさか覚醒するとは思ってなかったからなぁ…」
 冗談の域で終わると思っていたのだ。吸血鬼の血脈なんて。
 何の因果か化け物の血に目覚めてしまった新一は、他人の血液を摂取しなければ多分衰えることを免れないだろう。
 それを知った快斗がなんの躊躇いもなく自分の血を飲めと言ってきたから。
「『不味そうだから嫌だ』って言っちまったからなぁ…」
「美味い不味いの問題じゃないんでしょう?」
「そういう問題だったら良かったんだけどな」
 苦笑して、新一はソファに身体を沈めた。


 飲めるはずがない。快斗の血なんて。


 ただ血液という"物"が生きるのに必要なら、同じ成分を合成するなりすればいい。だけれども、吸血という行為で奪われるのは血液だけではない。そこに付随する生き物が生きるための"モノ"。
 誰が好き好んで、気に入っている相手の寿命を縮めるような真似が出来るというのだ。
 その理屈で言うと、快斗の気持ちも分からないのではないのだが。
 見知らぬ誰かの寿命より、快斗の寿命の方が奪い難いのは確かだ。そして、見知らぬ誰かとて手にかけられないくらいには、自分は人間として生き過ぎた。
「これだって、表面上は好き嫌いの問題だよな」
 快斗が好きだから、快斗を糧には出来ない。
 そうやって新一が困ったように笑うから、哀も似たような表情で笑う事しか出来なかった。





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