『 aphrodisiac blood 』
Lavi*Allen
「……ん…っは……」
鼻にかかった甘い声。夢中になっていたのか忘れていた息をようやく、といった態で吹き返した吐息が肌にかかる。
正直言うと、堪らない。
「……アレン?」
ささやかに呼びかけても聞こえていないのか、アレンは自分で作ったラビの手首の傷口に唇を這わせている。
掴まれている腕とは逆の手で頬に触れる。する、と一度肌を撫でてから優しく叩くと焦点の合っていなかった瞳に光が戻る。
「あ、」
「おはよ?」
茶化すように覗き込むと、赤みの差した肌がさらに染まる。
「済、みません!」
「いえいえ。ご馳走様?」
「はい。ありがとうございました」
さっきまでの表情とはうって変わって爽やかささえ感じる透き通った笑みにへらりと笑い返してから、今度は逆にアレンの腕をラビが取る。
ベッドの上なのをいい事にそのまま押し倒されたアレンは、状況が把握できなかったのか頻りに瞬きを繰り返している。
「……やだ?」
「え、いえ、えと、」
しばし口の中で不明確に言葉を噛んで、やがてアレンは少し伏目がちに否定の言葉を否定した。
「ん?」
「や、じゃ…ないですけど」
聞こえないフリで問い返したラビにアレンは少しだけさっきよりは明確に、それでも戸惑いがちに語尾を途切れさせる。
「ね、アレン」
「はい」
「腕より首の方がいい?」
一瞬ラビの言葉の意味を捉え損ねたアレンは小首を傾げ、次いでその質問の意図を理解して困惑に目を瞬いた。
「どうしてですか?」
「んー…ちょっと気になって」
「心臓に近い方が、いいような気はしますけど」
それが一切というわけでもないですよ、と言った後にアレンはラビの腕に視線を移す。
「それに、これだけで僕には充分です」
きっぱりと言ったアレンにラビはひとつキスを送ってから少し迷うように口を開いた。
「前からさぁ、言おうと思ってたんだけど」
「…はい?」
両の手首を拘束されたまま、もう一度キスするかのように上から顔を近づけてくるラビの目を思わずといった風に真正面から捉えたアレン。それににこり、と笑って見せる。
「アレンのお食事中の顔とか…声?が、さ」
「顔と声」
「物凄い色っぽいんだよね」
再び、意味を捉え損ねたアレンは一拍の間の後にぶわり、と顔を朱に染めた。
「え、え、えぇ!?」
「もーお兄さん見てるだけでイっちゃいそうなくらいで」
「イ…ちょ、ラビ!?」
「ぶっちゃけもうそろそろ我慢の限界です」
ちゅ、とアレンの首筋に音を立ててキスを落とす。アレンが事の外弱い部分だ。
「っひぁ」
「ね、ちょっと余裕ナシナシなんだけど、」
……やだ?
少し前と同じ問いを耳元へ吹き込む。
「…ずるい、ですよ…」
「そ?」
涙目で目を逸らすアレンの顔を再び窺う。ベッドに縫いとめられた状態で、賢明に顔を背けたアレンはしばらくもごもごと口の中で何かを呟いていたが、やがて出た言葉は。
「や、じゃないです……よ」
語尾はフェードアウト気味だったが、やはりさっきと同じ。
目を合わせてはくれないアレンの耳朶にまたもうひとつキスをして、ラビは小さく感謝の言葉を述べた。
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