『 a silly dream 』

Athuran*Kira



「ね、アスラン」
「ん?」
「ちょっと聞いてもらいたい事があるんだけど」
「ああ。何?」
「実は僕、ヴァンパイアなんだ」


 ちなみに今日はエイプリルフールではない。


 思わずカレンダーに目をやれば、そこに描かれたハロウィンのイラスト。
「…嘘だろ?」
「うん。冗談」
 あっさりと否定の言葉が返ってきた事に脱力しながら溜息を吐くと、隣りにちょこんとしゃがんだキラが続けて口を開いた。
「っていうのが嘘」
「………は?」
「だから、最初がホント」
「………キラ。ハロウィンは仮装する日であって嘘を吐く日じゃない」
「知ってるよ」
「ああそう」
 ぷくり、と膨らませたキラの頬をアスランは指で突いて凹ませた。
「ア、ス、ラ、ン!」
「はいはい」
「僕は、真面目に!」
「俺も真面目だよ」
「信じてないし!」
「分かったよ。信じるよ。で?」
「え、『で?』って」
「だからそれで?」
「…それで……えーっと、」
「血が欲しいとか?」
「いや、そうじゃなくて…」
「なくて?」
「なくて…えーと、」
 困惑に言葉を詰まらせてキラはしばらく次の言葉を探していたが、やがて思考が纏まらないことに自分で苛ついたのか唐突に悩むのをやめた。
「なんか違う!」
「何がだよ」
「なんかもっと…なんていうか…」
 反応が違うだろ、と逆切れのように責められて、アスランは呆れの表情で深く息を吐いた。
「今更だろ?キラがなんであってもさ」
「ヴァンパイアでも?」
「ああ」
「人間じゃなくても?」
「ああ」
「いつか君の事食べちゃうかもしれなくても?」
 積み重なる問いに、アスランは小さく吹き出した。
「食べる気か?」
「でもだって…」
「食べられそうになったら一応逃げるとかするかもしれないけど。キラが本当にどうしようもないくらい空腹で死にそうだったらまた考えるよ」
「……………。」
「不満?」
「不満!」
 思いっきり肯定したキラは、しかし膨れっ面のまま「でも」と付け加えた。
「でも?」
「うん」
 一度俯いて、もう一度顔を上げた時にそこにあったのは拗ねた表情でもなければ怒りでもなく。


「ありがとう」


 はにかむような表情に。
「どういたしまして」
 少しだけ笑って、アスランはそう素っ気無く返した。









―――――…っ!?」
 ぐるりと視界を一巡りさせて、アスランは長い息を吐き出した。
「……夢、か」
 我ながらどうしてこうも馬鹿馬鹿しい夢を見たのかなんて想像に難くない。
 昨日、ハロウィンの衣装を選びに付き合っていた時に、キラが事の外気に入っていたのが吸血鬼のコスチュームだったのだ。
「なんて安易な…」
 額に手を当てて、可笑しな夢の残滓を振り払うように首を振って起き上がったアスランの耳にドアをノックする音が響いた。
「おはよう」
「キラ?」
「ね、アスラン」
「………何?」
「ちょっと聞いてもらいたい事があるんだけど」
 その言葉に、思わずアスランは自分の口元がひくりと引き攣ったのを感じた。

 まさか、な。






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