『 質、量、気持ち。or etc. 』
Deuil
「今年も来たっスね…この季節が」
「………。」
不機嫌のためではない沈黙は同意ととっていいものかどうか。実のところ独り言にも近かったアッシュの言葉にユーリは反応を示さなかった。
どれかといえば呆れているが1番近いかもしれない。もちろんアッシュにではなく目の前の郵便物に対してだ。
箱の数を数える気にもならない。
もちろん、箱と言うのも可愛らしいラッピングを施された箱の数ではなく、それが一体いくつ入っているのか分からない大箱の数である。
1箱に数十個、の更に掛け算。
はっきり言って手をつけ辛いことこの上ない。
「質より量より、気持ちだけでいいんスけどね…」
「手作りのナマモノが入っていないことを祈る」
「去年みたいにマッチュッチュが間違えて入り込んでたりしたらマズイっスからね」
「………。」
どこか外れたアッシュのコメントにまたも沈黙したユーリはそのまま踵を返そうとした。この大量の大箱はアッシュか蝙蝠達が片付けるのが恒例である。
そう思ってふとユーリはもうひとつの"毎年恒例"を思い出した。
「あ、届いた?」
一足遅れてやってきたスマイルは、2人が声をかける間もなく大量の箱の中から自分宛の物を探し出すとその場で乱雑に開き始める。
「スマ!そんなとこで散らかさないで欲しー…っス……」
アッシュの声が弱々しくフェードアウトしていく。
「わーお。また新作だネ。うわ戦えギャンブラーZシリーズ箱買いしてくれた人いるよ嬉ぃー!」
「スマ…」
「あ、これ手作りだヨ。見てアッス君!」
「………。」
「明日サイバーに自慢してこよーっと」
「………良かったっスね………」
辛うじてその言葉を搾り出して、アッシュは箱の回りに散らかっていく某ギャンブラーのパッケージをぼんやりと見守るしかなかった。
これもまた毎年の恒例状態を見てしまったユーリはその場から黙って飛び去った。
BACK