『 比較対照 』
Timer*Ice
「はっぴーばれんたいーん!!」
ぱーん。と軽く弾けた音を立てて破裂したクラッカーから飛び出した色とりどりの紙テープ。アイスはそれを自分の頭から外す以外のリアクションを起こす気にもなれなかった。
「さくっとシカトー?もしもーし?」
「…出来れば耳に負担の無い祝い方を頼みたいな、タイマー」
「了解しました☆」
本当に分かってるのかと思うくらい明快で軽薄な返事だったが、それをあえて言及はせずにアイスは真正面に立つタイマーの横を通り過ぎようとした。元々彼の行く先はタイマーが突然現れた廊下の角を曲がった先のブースだ。
しかしその行く手を当然のようにタイマーが阻んだ。
「……なにか用?」
「うん。」
にこにこにこにこ。
そんな擬音が聞こえそうな笑顔と共に手を差し出したタイマー。それはもちろん貴婦人をダンスに誘うでもなければ歌ってる最中にファンに向けて差し出すものでもなく。正しくおやつをねだる子供のそれで。
「………なにこの手」
「ちょーだい」
「なにを」
「チョコレート」
当然のようになにを要求しているのだ、と問いたくなったが無駄だと早々に悟ってアイスはそこにはない空を振り仰ぎたくなった。仰いだところで今見えるのは白い天井だが。
「持ってるわけないって分かって言ってる?」
「え、ウソ。ないの?」
「ありません」
「なんで!?ドリーとボリーにはあげたんでしょ!?」
「……なんで知ってるの」
「昨日犬用チョコレートを買っていたとスタッフからの目撃証言が」
「うん。買ってあげた」
「酷くない!?2人にはあげてボクには無し!?」
「うん。なし」
素直に頷いたアイスは泣きそうな顔で固まったタイマーの脇を通ってブースの方へ歩き出す。
それに気付いたタイマーは、なおも諦めきれずにアイスを追った。
「楽しみにしてたのにー!もうこの際チョコじゃなくてもいいからー!」
半ば駄々を捏ねているタイマーにアイスは足を止めずに「例えば?」と訊ねる。
それへのタイマーの答えはいたってシンプル。
「愛!!」
また面倒なものを、とは言わずにアイスは自分の持っていた荷物の中から何かを探し出した。
そして一度立ち止まってタイマーを振り返ってそれを手渡した。
「はい。」
「はい?」
「今度の曲のデモ。僕のタイマーへの愛。ちゃんと渡したからね」
「って仕事じゃん!」
「というか、ドリーやボリーと比較する時点でおかしいって」
「おかしくないよ!目下ボクの最大のライバルだよ!?」
「あぁ。可愛らしさの?それこそ比較対照にならないよ」
「酷ッ!ボクのが可愛いって!!」
「うちのコが1番可愛い。」
「アイスの親バカー!!」
「はいはい」
今度こそ振り返る気配を見せずにアイスはブースの中へ入っていってしまった。
「ちゃんと"愛"は篭ってるんだけどね…」
どうして納得できないのだろうと思うアイスは、本日タイマーの想いの斜め上を飛行中の模様。
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