『 臆病者のバラ 』
Heydrich*Edward
「ん…?」
寝返りを打ったら、手に何かが触れた。
柔らかな布の感触とは異なるそれに違和感を覚えてエドは目を開けた。
狭い視界の中に自分の左手がある。その下に、寝る前にはなかったはずのものがあった。
「バラ?…と、カード?」
一輪のバラと、2つに折りたたまれたカード。
エドはベッドに上半身を起こしてそれらを手に取った。
バラはひとまず膝に置き、カードを開く。
「……バ…レン、タイン?」
って何。
聞き覚えのない単語だ。
"おめでとう"と書かれているからには祝日の一種だろうか。
ぼんやりとカードに描かれた祝い文句を眺めていたエドは、やがて諦めてカードを閉じた。自分の部屋にこんなものを置けるのはアルフォンスくらいだろう。本人に訊けば済む事だ。
髪を無造作に払って本格的に起き出そうとしたところで、ドアがノックされた。
「ハイ?」
「おはようございます、エドワードさん」
「ああ、はよ。コレ何?」
ベッドの上に放り出されたままのバラとカードを指すと、アルフォンスは苦笑を見せた。
「バレンタイン…っていう日には、愛する人に匿名でカードを送るっていう習慣があるんです。バラは、僕が通ってた学校で流行ってたんです」
「バラ渡すのが?」
「ええ」
「そういうのは女にやれよ」
「渡す相手がいませんよ」
でもせっかくだから、とエドにプレゼントしてみたのだと言う。
「……ま、要は好意を表すもん?悪いもんじゃないしな」
呆れたように笑って、エドはカードをサイドテーブルに置き、バラを手にした。
「枯らすの勿体無いし、花瓶あるか?」
「はい」
「あとで俺も下で買ってくるかな」
にやりと口を曲げて、花屋さんにサービス、と言ったエドにアルフォンスも弱く笑い返した。
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