『 甘い猫 』
Kanone & Ayumu
「あ、歩君」
丁度良かった、と機嫌よく近づいてきたのはカノン。
「何の用だ?」
「あれ。冷たーい」
「普通の反応だ。嫌なら声をかけるな」
「冗談」
歩の応えを軽く流して、カノンは持っていた包みを差し出した。
「……これは何の冗談だ?」
「やだなぁ。こっちは冗談抜きだよ」
小さな四角い箱。品のいいダークブラウンの包装紙に臙脂色のリボンがかかったそれは何故か金の小さな鈴まで付けられていた。
「デパートの展示場で見つけてさ。可愛くて思わず買ったはいいんだけど、あんまり可愛いから食べるに食べれなくて」
この時期のデパートで見つけたと言う事は確実に女の子の溢れる特設会場で手に入れたのだろう。
想像以上にツワモノである…カノン・ヒルベルト。
「それで、俺か?」
「うん。あ、本命だから」
「寝言は寝てから言ってくれ」
「隣りで聞いてくれるの?」
「遠慮する」
「冗談はさて置き。義理なら受け取ってくれる?」
「義理?」
「アイズと仲良く食べてよ」
相変わらずの笑顔で告げたカノンに、歩は呆れた。
「……受け取らないと帰してくれなそうだしな」
「当たり」
平然と肯定したカノンに、溜息を吐いて歩は箱を受け取った。
「お返しはホワイトデーに猫のぬいぐるみね」
期待してるから、と勝手に続けたカノンに苦笑うしかできず。
軽く震えた手の中で、箱にくっついた鈴が答えるようにチリンと鳴った。
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