時々考える。
たとえば、あんたと恋なんて難儀なもの始めなければ。
何が変わっていたのか、ってことを。
「なんでここにいるかな俺…」
もう見慣れた天井。ベッドに寝そべっていればそれしか視界に映らない。
しかしそれだけで十分現状は把握できた。
何度か来たことのある場所だった。
そして、そう何度も来たいとは思わない場所。
なぜか居心地が良いとは思えないのは、"家"というものへの少し歪んだ思い入れのせいだろう。
自ら失くした家を、彼の中に探すのはなぜかとても不自然な気がした。
多分、彼の家庭を思い描けないから、だろうか。
一般男性の基準から考えて、既に妻がいて、子供がいて、という自然な家庭を描けてもいいはずなのだが、どうにも当てはまらない。特に"子供"というものが。
以前、彼の子供に間違われたことはあった。逆算すると少々いただけない年齢で出来た子供になるが。
自分がヤツの子供だったら?
「うーわー…あんな親父は嫌だなぁ…虐められそう」
もちろん近所の同級生にという意味で、決して児童虐待をしそうだという意味ではなく。
しかし自分の親を省みると、どっちがいいかはよく分からなかった。
結局のところ彼が自分の親になることはありえないのだからいいのだが。
だが仮定の話というのは成り立たないからこそ、であって。
エドはその考えのまま自分の人生を成り立たせてみた。
まず父親がアレだとして、母親は。
余程出来た人だろうなぁ…アレと結婚するなんて。
自分のことを棚にあげて考えたところで、自分の中の母親像は自分の母以外になく、仕方なくそのまま思考を続けた。
恙無く成長して。何になるかといえばやはり錬金術師しかなく。しかし軍に関わらなかっとして、果たして何の研究に没頭しているのか。
「やっぱり賢者の石とか、な…」
苦笑いして、エドは寝返りを打った。
研究して。自分の知りたいことやりたいことをして。
そして。
そして?
"誰か"を好きになって。
誰か。
理想的な異性のタイプはと問われてもすぐには答えられない。
「どんなだよ…?」
自分の隣りに"可愛い恋人"なんていう甘い存在がいることが想像できなくて、エドは呻いた。
多分。多分だが。というか出来れば身長はそれ相応に伸びているとしても、自分より背の高い人は嫌だと思う。男として。
「小動物系…明るくて、美人ってんじゃなくて、可愛い…」
「可愛い?なにがだい?」
「あ、おかえり」
「ただいま。それで?」
「いや。オレの好みの話」
「ほう…それは聞き捨てならないね」
寝転がったままのエドの顎を少し上向かせて、ロイは含み笑いを漏らしながら唇に触れた。
口端を舐め、下唇を軽くはむように触れ、そして、更に深くくちづける。
「それで?私では不満だと?」
「ん…さぁ」
唇を触れ合わせ、離してはまた触れる。その合間の問いにあえてはぐらかすような答えを返す。
多分この人じゃなくても良かったはずだ。
この人がいなければ。
「エド?」
「んー?」
「好きだよ」
「うん」
知ってる。
そう呟いて、エドは困ったように笑うロイの首に腕を回して、引き寄せた。
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