ろくすっぽ寝ていない目に、朝の光は眩しすぎる。
 エドは目を擦りながらベッドからもそもそと這いずり出た。
 隣りで寝ている穏やかで幸せそうな面に思わず悪態をつきたくもなる。

「アホ面…」

 笑顔で言っても効力はないなんてこと自覚している。
 誰が聞いているわけでもないから、そんな無駄なことも出来た。
 疲労感や倦怠感は重く身体をベッドへ縫いつけようとするけれど、それでも瞼は閉じてはくれなかった。
 夏の蒸した空気のように纏わりつく悪夢にとりつかれてしまった日にはこうしてまんじりともせず夜を明かすのがすでに習慣になっていた。どんなに身体を疲弊させてもその理不尽な癖は影を薄めはしない。


 絶たれた望みを見ないふりで無様にしがみ付いている。

 そうは思いたくない。
 そう思うこと自体が無様だとしても、エドはそれを手放せない。


 時々ふと思ってしまうのだ。
 弟は元に戻らなくて。
 自分の片腕片足は鋼のままで。
 争いは絶えなくて。
 いつも、忙しい相手に適当に相手をされて。


 それでもそれが幸せなんじゃないかなんて、錯覚。


「だからアンタのこと嫌いなんだよ…」


 とても理不尽な思いに襲われたエドが床に足をつけたところで、隣りの眠り人は半覚醒をしたらしい。
 伸びた腕が肩を掴んで後ろに引き寄せる。
「っぶね…!」
「…冷えてるな」
「何、」
「ちょっと暖まっていけ」
「…命令形」
 ばさりと被されたブランケット。そこに残る人肌の温もりと肌に直接触れる血脈の温度。


 暖かい手に触れられる度にこっちがどんな気持ちになってるかなんて知らないだろう。


「だから、嫌いなんだよ…っ」


 噛み殺すように呟いた言葉をきっぱり無視して、暖かな手があやすように髪を撫でて、そのまま瞼を覆い隠すように額の下に落ちた。
 少し湿った感触を今更隠すことも出来なくて、その手に思いっきり雫をこすり付けてやった。










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