寒い、寒い日。



「あれ、スマ?」


 後ろからかけられた声に振り返ると、コートを着て、ニットのあったかそうな帽子をかぶった狼男がいた。


「ヒッヒッヒッ。アッス君、似合わないねぇ……」
「ヒドイっス!!」
「冗談だよ」
 繰り返し笑って言うと、アッス君はまだちょっと怒ってるっぽく僕に近づく。



 森の中のユーリの城へと続く獣道。
 常緑樹の森の中でも落葉は積もる。
 ぐしゃぐしゃと足を乗せるたびに音を立てるそれを踏みつけているところで、アッス君が通りかかったワケ。



「何してんスか?」
「何かしてるように見える?」
「落葉踏んで固めてるみたいっス」
「その通りだねぇ」
 笑顔を絶やさずぐしゃぐしゃと。
 やってたらアッス君が奇妙な顔をしたから足を止めた。
「早く行かないとユーリ怒っちゃうよ?」
「そうっスね……ってスマに言われたくないっス!」

 足止めの原因っていうこと?ヒドイねぇ。
 でももう怒ってるカンジじゃないんだ。

 ああもうアッス君ってば大人ー。

 って口に出てたみたいでまた変な顔された。










 慣れた道を他愛ない話をしながら歩いて、城に着く。


 でも見当たる場所にユーリがいない。

 また気まぐれかなー…とか思いながら台所にいるアッス君に聞く。
「犬の嗅覚で分かんない?ご主人サマの居所」
「犬じゃないっス!!ユーリ、いないっスか?」
「狼の嗅覚が犬に劣るわけないデショ?」

 でも"ご主人サマ=ユーリ"のことは何も言わないワケ?

 口には出さないでいると、アッス君は「部屋を見てきます」って言って部屋を出て行く。いってらっしゃーい。










「従順な忠犬がお探しだよ?」
「馬鹿は休み休み言え」
「じゃあ休憩しようかな。僕も探してるんだ」
「ご苦労だな」

 城の裏にある庭(?)にいたユーリを見つけて。
 すぐに返ってきた言葉から考えると、アッス君はまだここには来てないのカナ?ダメだねぇ。
 ぼんやりと空を見るユーリに近づかないで、ただ一緒に立って待ってみた。


「…………雪が」
「うん?」
「降らないか、と思って」
「そう」
 僕が頷くとそれっきり。それ以上ユーリは何も言わない。


―――なんで雪?」
「嘲笑しいか?」
 不機嫌な声。
 ユーリってばもしかして寝起き?今昼だよ?


 でもサ、

「何でそんなに楽しそうなの?」

「おまえに言われたくない」
 あーそう。確かにね。

 嫌味っぽく笑ったユーリに僕はまた笑う。










「ユーリ。……とスマ」
 少し経ってからやってきたアッス君。
「昼ゴハン出来たっスよ」

 …いつの間に用意したの。ユーリ探すのは?もしかして先に見つけてたの?

 ってよく見たらユーリ自分のコートじゃなくてアッス君のコート着てるじゃん。
 やられた。僕の負け?


「雪が降って欲しいんだって」
 言うと、アッス君は少し困ったように笑う。
「いくらユーリでも、そんな思い通りにはいかないっスよ」
 "いくらユーリでも"って言うあたりアッス君。
 そして現実的だね、アッス君。


 でもココ、メルヘン王国だからネ。



 ユーリの口から、真っ白い息が空気に混ざる。
 それと、小さく笑った気配

「見ろ」

 今度は嫌味じゃなくて。
 どんよりとした空からふわふわと落ちてくるものを満足そうに見てから、ユーリはすぐに方向転換した。

「……寒い」

 ユーリってば白い薄手のシャツの上にアッス君のコート羽織ってるだけだし。寒いに決まってるじゃん。


「ユーリってバカだよネ……」
 本人に聞こえないように言って、笑う。
「スマも早く中に入るっすよ」
「そうだねぇ。寒いからネ」



ところでアッス君、お昼はカレー?
 …違うって。悲しいネ。












「君らの傍だとホントに笑うコトが増えるよ」


 これ以上笑ってどうするんだろうねぇ、僕は。
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