「そういえば、明日は七夕っすね」

 星空を見上げてアッシュが呟く。
 半月には薄っすらと雲がかかり、緩やかな風の流れに漂っている。

「生憎と、笹などないぞ」
「えー!無いの?」
「飾る気か?」
「いーじゃん。庭広いし」
「願い下げだ」
 子供のように文句を続けるスマイルを、ユーリが煩げに見る。
「大体、飾ったところで何も起こらん」
「夢ないっスねー…」
「そーだよユーリ。願い事するだけすればいいじゃん。叶ったら儲けモノ」
 苦笑したアッシュにスマイルが便乗。しかしユーリは呆れたように溜息をついただけだった。
「願い事、たくさんあるのになー。アッス君は?」
「そうっスね…多少は」
「多少ー?ってことはちょっとしかないの?ボクはぁ…『カレーが食べたい』、『ギャンブラーZに乗りたい』、あとネー…」
「カレーはアッシュに作ってもらえばいいだろう」
「だってアッス君たまにしか作ってくれないし」
「いっつもカレーじゃダメっスよ」
「ホラー!あ、じゃあアッス君の願い事は?」
「……新しい包丁……」
「夢がなーい!!」
 少し現実に立ち戻ったように呟いたアッシュに、スマイルは口を尖らせる。

 そして次のターゲットを振り返る。

「じゃあ、ユーリは?」
「……特にはない」
「…ひとつも…っスか?」
「ああ」

 頷いて、ユーリは空を見上げた。


「望んだものは、ここにあるからな」


 ばさり、と赤い羽根を広げて。
 地面から少し足を浮かせたところで、ユーリが呟く。


 そのまま空へと飛び去ってしまった吸血鬼を、地上の二人は見送るしかない。


「なんかさぁ……ヤラレター…ってカンジ?」
「……そうっスね……」
「ボクも空飛びたいなー」
「………一緒に?」


 2人で顔を見合わせて、頷きあって。
 同時に笑い出した。


「いつかやろうネ」
「そうっスね」




 星には願わず、約束する。
back

七夕企画。