Laugh at me
「どっぷり冬だねぇ」
「『すっかり冬だ』とは言いますけど『どっぷり』はちょっと間違ってるんじゃ…」

深々と冬に浸かってる。
そんな意味になるんだっただろうか。

「あれぇ、そう?日本語って難しいネ」
「はぁ…俺もよくは分からないっスけど」

まぁ、日本人ではないし。
というか人間でもないし。

「めっきり寒いねぇ」
「懲りねぇし…」
「あってるでしょ、今度は」
「そうっスね…ここんとこ暖かかったっスから」
「まさかいきなりこんなに寒くなるなんて予想外だよねぇ」

あぁ寒い寒い。
そう呟きながらグルグル撒きにしてあった首のマフラーをずり上げて顔の半分を覆う。

「でも寒いの好きー」
「…そうなんすか?」
「マフラーできるし」
「…グルグル巻くの好きなんすか?」

初耳だ、と思って訊ねる。

「ううん。包帯男に間違われるのは嫌い」
「…じゃあ何でっスか?」
「口が隠れるでしょ?」

ヒヒヒ、と。

…それで表情が隠れると思ったら大間違いだ。
このヒトが笑っている時だけはどうやったって分かるし、大体笑う以外の表情なんてあんまりない。

「アッス君は?」
「はい?」
「いつが好き?」
「あー…夏?」
「やっぱりぃ?」

口調から分かる。
グルグル巻きのマフラーの下でまた笑っているのが。

「なんかアッス君、夏!って感じだもんねぇ」
「はぁ…そうっスか」
「うん。あー夏もいいよねぇ」
「…どこが?」
「カキ氷がおいしいところ?」

この調子で行くと多分春でも秋でも構わないんだろう、あまり。
というかこのヒト実は暑さも寒さも感じてないんじゃないか?とか思う。

「アッス君さぁ、冬苦手?」
「何でっスか?」
「顔が固まってる。寒い?」

寒いと言うか。

「これが俺のフツーな顔ですけど」
「じゃあもうちょっと笑おうよ」


Laugh at me?


他愛ないおしゃべりの間にこのヒトは何回笑っているんだろう。
そんな事を思いながら、少しだけ口の端を上げる。

「スマ、ギャンブラー、落としたっスよ?」
「ぎゃー!ボクのギャンブラー!!」

数歩手前の道に落ちているフィギュアを発見して猛ダッシュする。
そんな時の方が意外と。
普段笑っているのより好きだといったら。


どんな顔をして笑うのだろう。
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