「ユーリぃ!これ行こう!!」
集合時間に遅れた挙句、ノックもなしに部屋に入ってきた相手に怒る気すら失せてユーリは呆れた視線を向ける。
「何事だ?」
「だから、コレ!」
はい、と渡された白い封筒。スマイルの手には同じものがあと2枚握られていた。
「ところでアッス君は?」
「キッチンだろう」
「OK。じゃ」
『For Yuli』とだけ書かれた表。何気なく裏返した封筒の封じにある小さな兎に目が留まる。
「…あの浮かれ兎か…」
溜息を吐いて、ユーリはペーパーナイフを取り出して封を一気に切った。
『各自仮装して来てください』と書かれたファンシーな招待状に、スマイルは乗り気だがDeuilの他2人は微妙な表情である。
「なに着て行こうかなーどうしようかなーどれがいいかなー」
「…仮装しなくても通れるっすよね…」
「そもそも欠席という選択肢は無いのか?」
「いやでもせっかくの招待っすから…」
「あの兎が主催のパーティーだぞ?」
「いや、別に悪い人じゃないっすよ」
「性質が悪い」
「えと…」
言い切ったユーリに反論の言葉が見つからず、アッシュは困惑気味にスマイルを見る。
「やっぱここはギャンブラーZかな。でもグレートギャンブラーも捨てがたいよネ」
行く気満々である。
「…というか今更何かに仮装するって思いつかないっす…」
「行くなら行って来い。私は遠慮す…」
「却下!」
ギャンブラーにうつつをぬかしていたスマイルの唐突な言葉に驚いたのはアッシュ。言われた当の本人は億劫そうにスマイルを見やる。
「私の自由だと思うが」
「ダぁメ。何が何でも連れて行くからネ」
ヒッヒッヒ、と特有の笑い声で目を輝かせたスマイルにアッシュは不思議そうだが、ユーリは気怠げなままそれ以上はなにも言わなかった。つまりは諦めていた。
「とりあえず正装なり盛装なりしていけばいいっすよね…」
「いつも通りで構わないだろう」
「え…?」
やけに言い切った口調にアッシュが疑問を挟む間もなく、席を立ったユーリはさっさと自室に篭ってしまった。
そしてその疑問はパーティー当日に解かれるのであった。
* * *
「はっぴーはろうぃーん!!!とりっくおあとりーと!!」
「こんばんは。いらっしゃい」
ドアを開けた瞬間に言い出したスマイルに笑ってキャンディーの袋と共に迎えてくれたのはアイスだった。
「中へどうぞ。もっとご馳走があるよ」
「ありがとー」
「えと、コンバンワっす」
「いらっしゃいませ」
戸惑い気味のアッシュに同じように笑ってアイスは中へと促す。ちなみにアッシュの格好は黒いYシャツに赤のタイ。ダークブラウンのパンツという衣装とあまり変わりの無い格好だ。
迎えたアイスは白いYシャツに黒のスラックスでタイはない。それだけならいいが、頭には猫耳らしいものがついている。
「猫耳、っすよね、それ?」
「あー…うん。どうにか尻尾と手足は付けられずに済んだんだけどね…」
どこか疲れた笑いを見せて、アイスはアッシュの後ろにいるユーリを見る。
ユーリはシャツ、パンツ、ブーツとも漆黒で、首にかかったロザリオはいつもより小ぶりのもの。そしていつもより大き目のコートで身を包んでいる。
「2人はいつも通りだね」
「仮装が思いつかなかったっす…」
「頭に包帯でも巻けばミイラ男なり何なり言い訳はつくが」
ややうんざりとユーリが言うと、アイスは小さく笑って頷いた。
「そうした方がいいかも。なんせ主催はタイマーだからね」
意味深に呟いて、どうぞと奥へ促される。ちなみに先に進んでいたスマイルはいつどうやって作ったのかは知らないがギャンブラーZの装甲で全身を固めていた。
「おーすごいなスマイルー」
「サイバーも結構細かくできてるヨ?」
「おう。一週間徹夜して作ったからな!」
一部凝りすぎの様相だが、客のほとんどはほぼいつも通りで十分に仮装になっているせいか違和感がない。
「トリックオアトリート」
肩越しに後ろから声がして、アッシュが振り向けば宙に浮いて手を出しているのは悪魔姿のポエットだった。
「済まないっすけどお菓子はないっす」
「じゃあ悪戯しちゃうぞー」
「え、例えば?」
「えーと、えーと、えーとぉ…お花髪に差してもいい?」
「…できれば遠慮したいっす;;」
悪魔の姿の天使にある意味追い込まれつつアッシュが丁重にお断りしている一方で、魔女の仮装をした裸足の少女にユーリは捕まっていた。
「生憎菓子の持ち合わせはない」
「別に"甘いもの"を要求してるわけじゃないわ。何かいい物を頂戴?」
「例えば」
「私の青い鳥」
「それも残念だが心当たりはないな」
「じゃあ…どうしましょうか?」
「悪戯もお断りだな」
「それは理不尽じゃなーい?」
不意にかけられた声の主を見れば、奇妙にも兎耳の生えた吸血鬼、パーティーの主催者が笑っていた。
「その耳取れないっすか…?」
「なに言ってんのアッシュ。僕は妖精さんだから生まれつき耳が生えてるの」
「そうっすか…」
「さぁてユーリ。TRICK OR TREAT?」
「菓子なら持ち合わせがないが」
「ちっちっち。『血をくれないと悪戯しちゃうよんv』ってこと」
吸血鬼に向かってよくそんな事がいえたものだ、と半ば呆れたユーリにタイマーは勝手に『悪戯』の方を選んだらしい。
「というわけで、悪戯!」
ぽす、と頭にかぶせられたのはタイマーのものによく似た兎の耳だった。
「結構似合うよv」
「………。」
無言でタイマーをしばし見つめて、ユーリはその兎耳を外し、丁度帽子を取ったかごめにそれかぶせた。
「…どうぞ」
「あぁ」
代わり、とでもいうように差し出された黒い三角帽をかぶってユーリは踵を返す。
「かごめちゃん動じないっすね…」
「でも似合うねー。さて、アッシュ君」
「え」
「TRICK OR TREAT?」
「えと」
「今なら兎に猫に犬にチーター…ゾウとか面白そうだよねあーとーはー…」
ずらずらと並べられる仮装という名の付け耳オンパレードのドツボにはめられたアッシュは逃げる事も出来ずに結局自前の狼耳の上にゾウ耳を生やすことでタイマーから解放された。
そうして、このパーティーはタイマーのよる『仮装させ』パーティーでもあったのだということを一部の客を除き全員が身を持って知らされたのだった。
「で、スマイル。私達を連れてくる代わりにタイマーに何を貰った?」
「ギャンブラーZのサイン」
明らかになにか間違ったそれを嬉しそうに額に飾るスマイルに、ユーリは無言で息を吐いた。
thanx for 40000HIT!(index) to Riso様