意味の無い行動
- ユーリ、ポエット
太陽
- スマイル、ユーリ
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意味の無い行動
しやしやと、包むような雨の降る日。
「どうして傘をささないの?」
鬱蒼と茂る森の中に緩く伸びる一本道。その上に人影を見つけたポエットは思わずそう尋ねていた。
「生憎と、持ち合わせていない」
声の主を空中に見つけた彼は、立ち止まって淡々と答えた。そしてそのまま歩き出す。
パステル色のお気に入りの傘をくるくる回して遊んでいたポエットは、慌ててそれを追って彼の斜め上を飛びながらついていった。
「ねぇ、こうすれば雨、こない?」
「そうだな。多少は」
「ポエット、あなたのお家までおくっていくよ?」
「それは遠慮する」
「どうして?ぬれちゃうと風邪ひいちゃう」
「そんなに脆弱ではない」
「ゼイ、ジャク?」
「…脆く弱いと言う意味だ。それにそう長い距離でもない」
「でもでも」
ふわふわと空中に浮いたままついていくポエットに、また彼は足を止めた。
「天使の習性だな」
ポエットを見上げ、ひとつ息を吐く。
その背に、不意に緋色の羽根が生えた。
「うわぁ…!」
「飛んで帰ればもっと早く帰れる。雨に濡れているのも私の自由だ」
「…ゆっくり歩いて帰りたいの?」
分からない、と言うように首を傾げて問いかけるポエットに、彼は少しだけ笑った。
「傘を差すのが嫌いなんだ」
「でもぬれるよ?」
「雨に濡れるのは嫌いじゃない」
「でも」
「お前達のように正しいばかりの生き物じゃない、ここに生きるモノは」
抽象的な物言いはまだ幼いポエットの理解も想像も及ばないものだった。それでも一生懸命に考えながら、ポエットはまだなお彼の後を追った。
「でも、でもね」
ひやりひやり。頬を撫でる空気はそう音を立てるみたいに冷たくて。
なのに目の前のヒトの髪も服もどんどん水を吸っていく。
ポエットは困り果てて、呟いた。
「私は、あなたがぬれるのがいやなの」
ねぇ、おねがい。
幼いポエットの精一杯の言葉。それっきり唇を噛み締めていれば、彼はポエットを見て溜息を吐いた。その音にばさり、と強い羽音が被さる。
無言で飛び去ろうとしている彼に、ポエットは慌てて口を開いた。
「今度おみまいにいくから!」
風邪をひいていないか確めに!
半ば叫ぶようなそれに、彼がまた少しだけ笑ったような気がしたから、ポエットは満足して彼とは逆の空へと翼を広げた。
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「天使に纏わりつかれた」
「そりゃ災難」
「災難なんスか…天使なのに…?;;」
太陽
ふわふわと漂う白い綿菓子。
切れ目なんてどう探しても見つからない、空中の水溜り。
青い空の湖の中で溺れもせずに太陽がてかっている。
真っ赤に燃える太陽、なんて情熱的な表現をされたところで、日中ヒトの目に映る光は決して赤くはない。
「僕らの眼の方が緋いヨ」
ヒヒヒ、と笑って呟く。緑葉に遮られた先にあるはずの光源に向かって、自慢でもするように。
「ネ。だって真っ白じゃん」
「……それは喜々としていう事なのか?」
「うん。自慢」
断言すると、溜息を吐く気配が上から落ちてくる。
呆れたような半眼で、地面に足を投げ出している笑い顔の仲間を見下ろしているその瞳も血の紅だ。
「あれぇ…機嫌悪い?」
「こんな真昼間から太陽光に晒されるためにわざわざ外に連れ出されればな」
「たまにはイイでしょ?」
「偶にも何も、一分一秒でもアレに晒される時間は少ない方がいい」
「ふーん?」
そっぽを向いてしまったユーリにそう頷きはしたものの、スマイルはその言葉を信じたわけではなかった。
いつもより饒舌なトコロは機嫌が悪いからではなくてむしろその逆。憎まれ口もいつもの事で、ただ話しかけられるのが面倒なだけだ。
柔らかな日の光は、日焼け嫌いな吸血鬼に案外気に入られたらしい。
しかしやはり強いあの光線は自分達には毒だ。スマイルは楽しげに毒光線を放つ丸がある辺りを見上げた。
温かさよりは冷たさを。光よりは闇を。せめて望むなら、月影にひっそり佇んでいたい。
今の自分たちは、真夜中の暗闇の中へと飛ぼうとする鳥の如く不自然だ。それがスマイルの笑みをより深くする。
「あーでもやっぱり落ち着かないかもネェ」
「発案者が文句を言うな」
「アッス君遅いし。ご飯待たずに帰ろっか」
ピクニックするからピクニック用のご飯作ってアッス君。あ、カレーもつけてネ?
なんて非道な要求を当然のようにした事をスマイル自身も忘れてはいない。しっかりと覚えていながらそれをなかった事のように振舞えるのがこの三日月口男の厄介な性質だ。
ユーリは呆れの溜息を再び吐いた。しかし彼もそう長くこの場に留まりたいとは思ってはいなかったので。
「10数えて来なかったら捨てていこう」
「りょーかい☆ユーリのそーゆーとこ好きだヨ」
「光栄だ」
ユーリのまるで気の無い返事にヒヒヒッ、と楽しそうに笑ったスマイルはのんびりとした調子で「いーち」とあとどのくらいかかるのか分からない速度で子供のように指を折って数え始めた。
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スマの数はいったりきたりするのでしばらく10には届きません。(≠アッス君への優しさ)
2007
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