「だからね、獄寺くん」
 ややうんざりとしながらツナが獄寺に説教をしている。その手には消毒液を浸み込ませた脱脂綿。
 傷があるのはツナではなく獄寺だ。派手な擦り傷をあんまり丁寧とは言えない手つきでツナに消毒されながら説教を聴いている。その顔はちょっと情けないような、申し訳ないような感じ。ツナの説教を聞く時いつも獄寺はこういう顔をして、面白いくらい真剣に耳を傾けている。
 ツナの言い分も大体同じ。何回目かなんて数えてないけど、同じ事をもう何回か山本は聞いている。ということは獄寺はそれ以上の回数を聞いていると思う。けれど二人はまた同じ事を繰り返していた。
「いや、俺も悪いんだろうけどさ…俺がドジばっか踏むからってのもあるけど、」
「いえ、10代目は悪くないです」
「だからって毎回毎回君が代わりに怪我するのもおかしいと俺は思う」
 獄寺の言葉をスルーしてツナは消毒し終わった場所に別のガーゼを当ててる。まあその気持ちは分からないでもない。
 ツナは悪くない、っていう言い分は正しいと俺も思う。けど、獄寺の言い分はツナにとっては意味が無いんだ。獄寺はツナの本当に言いたい部分を理解していないから。
「俺に怪我させたくないって思ってくれてるのは嬉しいよ。でも俺もそうなんだ」
「10代目」
「俺のせいで怪我なんてして欲しくない」
「そんな、10代目。俺はいいんです」
「いや良くないんだって」
 なんで分からないかな、と困ったのと怒ったのを混ぜ合わせた声が床に向かって落ちる。絆創膏を貼ろうとしていたツナは、下を向いたまま指に貼り付く粘着面と戦ってる。思わず手が出た。
「あ、ありがと」
「ん」
 お互いちょこっと笑いあう。どうにか、少し撚れたけど一応は元通りになったそれを小さな傷にぺたりと貼れば、治療は終わりだった。
「よし出来た」
「ありがとうございました10代目」
「どういたしまして。てか俺の方がありがとう、なんだけどね」
 説教はしていたけれど、最後にはいつもそうやってツナはちょっと困ったみたいに笑う。それに獄寺が当然です、って返して笑って。
 それで俺はいつも思う。ああまた今日もダメだったなぁ、と。





「ツナも鈍いけど、獄寺も鈍いよな」
「んだと山本テメー10代目を侮辱すんじゃねー!つーかテメーにゃ言われたくないんだよ!!」
 帰り道でツナとは別れた後、獄寺に言ったらすごい勢いで怒鳴り返された。
「ブジョクしたつもりは無いんだけどな…」
 どう言えばいいのか分からなくて頬を掻く。こっちはストレートに言っているつもりでも、獄寺にまともに通じた事はあんまり無い。
 獄寺がツナに怪我させたくないのは分かる。大切なヤツが傷つきそうなら助けてやりたくなって当然。
 けどツナの言い分だって分かる。自分のせいで大切なヤツが傷ついたら、すげー困る。掠り傷とかならまだいいかもしれないけど、獄寺の庇い方がハンパないからツナも余計に心配になるんだろう。
 俺はツナと屋上ダイブした時にそれが分かったんだと思う。ツナが助けてくれたのは物凄く嬉しかったけど、それでツナが怪我してたら、って考えると嬉しい気持ちと同じくらい恐くなる。実際、あの時は取り返しのつかない怪我をしてても不思議じゃなかったから。
「ツナは獄寺が、ダチとして大事なんだ」
「んなことテメーに言われなくても分かってる」
「分かってんならあんま無茶すんなよ」
「だが、それでも俺は10代目をお守りしなきゃいけねェんだ」
 予想通りの頑なな返事だった。
 獄寺のツナに対する態度は、友達というポジションから時々ずれる。そのズレがある限り、互いの言い分全部を分かり合うのは。
「…うーん?…やっぱムズいよなー…」
 結局テメーは何が言いたいんだはっきりしねぇな果たすぞ!と獄寺がキレる。
 この日、結局上手く伝え切れなかった自分もまた、俺もよく分かんねーやと投げ出すしか出来なかった。





 そしてまた獄寺はツナの説教を喰らってる。
「ねぇ獄寺くんホントにさぁ、命がけで俺守るのやめない?」
「そんな10代目。10代目に何かあったら、」
「うんいやだけどね?俺も獄寺くんに何かあると困るし。ちゃんと生きて隣りにいてこそなんじゃないのかな、多分、右腕ってさ?もし俺がその…ボスになるんだったら、きっとそう思うよ。ならないけど」
「10代目…!さすがっス10代目…俺感動しましたッ!10代目にそう言って貰えるならもう死んでも悔いはないっス!」
「いやだからさ…俺の話聞いてた?」
 やっぱり微妙にズレてる二人を眺めながら思う。この調子だと多分今日も無理なんだろうなぁ、と。
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他の2人からしてみれば山本もなんかずれてるわけで。


070913