Good day Dream

「呆れた…」




(scene 01 / with Hibari)

「綱吉」
「………。」
「綱吉」
 コツコツ、と部屋のドアを叩かれる音と重なる呼び声。深い眠りの淵からどうにか浮かび上がり薄く眼を開けるとドアの前に立っている人物が見えた。
「…?」
「学校行かなくていいの?」
「が…っこう?今、何時…」
「8時半」
「はちじ…はん?8時半!?」
 枕元の目覚まし時計を引っつかんで確かめれば確かに8時半を少し過ぎたところで。
「な、なんで…!?」
 しかし疑問を投げかけている場合じゃなかった。どんなに急いだところで遅刻だ。今日の1時限目は生活態度にまでうるさい面倒な先生なのに。
「てかなんでヒバリさん起きてるんですかッ?」
「寝てないから」
「寝てくださいよ体に悪い!」
 わたわたと鞄に教科書を突っ込み、制服に袖を通しながら叫んだら階段を転げ落ちそうになった。
「人の心配してる場合じゃないんでしょ?」
「あぁぁ行ってきまぐふ」
 挨拶を告げて出て行こうとしたところで口に何かを突き入れられた。
「あんですかこれ」
「サンドイッチ」
 夜食の残り、という付け足しの情報に少し眉を顰める。夜中に食事するのも眠れなくなる原因だ。
「あひがほうごはいまふー」
「どう致しまして。いってらっしゃい」
 あふ、と欠伸交じりに見送られる。この人はこれから寝るのだろう。
「今日は少し寒いですからちゃんと暖かくして寝てくださいね、あと適度にお日様の光浴びてくださいそうしないとまた夜眠れませんよ、いってきます!」
 ほとんどを一息で言って、綱吉は家のドアを閉めた。









「…贅沢なこった」




(scene 02 / with Reborn)

 走ろうが歩こうが遅刻に変わりはないと思えば急ぐのも面倒で、のろのろと歩いて校門をくぐった綱吉はふと目を向けた校庭の風景に首を傾げた。
 1時限目の授業時間は既に半分以上が終わっているはずなのに、校庭の端でまばらに散らばるジャージ姿の生徒達はまだ準備運動すらもこなしていなそうな様子だ。教師の姿もない。
「あれ?」
 遠目に見える時計の針を確認する。9時を少し過ぎた辺り。間違いじゃない。
 人影のない下駄箱でなおも疑問に首を捻りつつ靴を脱ぎ、上履きを取り出そうと頭を上げたところで目の前の廊下を一人の教師が行過ぎた。それはまさに自分のクラスの1時限目を担当する教師で。
「え、」
 上履きに手をかけたまま思わず零した声。それを聞き留めたのか、彼が綱吉を振り返った。
「なんだツナ。重役出勤か?」
「え。なんで…?授業は?」
 この教師とは昔馴染みなせいで、気付くと気安い言葉遣いになってしまう。いつもはそれを咎める彼だが、人目がないせいか今はなにも言われなかった。
 その代わり、ふと彼は酷く意地悪そうに笑った。とても教師の顔じゃない。
「お前担任の話聞いてなかったのか?」
「うえ?」
「今日は文化祭の片付けがあるから、授業は30分遅れで開始だ」
 彼の片手にあるのは綱吉のクラスの出席簿。言われた言葉を噛み砕き、飲み込み、消化するのに十数秒。

 つまり、

「今から1限…!?」
 綱吉の言葉を肯定するようにチャイムが鳴り始めた。チャイムはしっかりずらして鳴らされているのだ。
「俺より早く教室着いたら遅刻は免除してやるぞ」
「だったらちょっと待っててよ!」
 言った傍から自分が脱いだ靴に躓いて転びかける。前のめりになった頭の上に、手をかけていた上履きがぼとぼとと落ちてきて直撃。
「相変わらず見事などじっぷりだな」
 早く来いよ、とあまり期待もしていなそうな声がかかって足音が遠ざかる。
「リボーンの薄情者ー!」
 寝坊した上今日の予定を忘れていた自分が悪いのは分かっているけれども、ああも馬鹿にされた態度をとられるとついつい非難の言葉が口をつく。
「よし後でねっりょり生活指導してやるから職員室に、」
「すみませんでしたー!」
 階段の方から聞こえた声に涙混じりに叫んだ綱吉は、八つ当たるようにスニーカーを靴箱へと乱暴に突っ込んだ。









「あーこりゃダメだな」
「声がでけぇんだよテメェは!」




(scene 03 / with Gokudera & Yamamoto)

「ゆっくりだったな、ツナ。どうしたんだ?」
「おはよー山本…寝坊しちゃってさぁ…」
「そうだったんですか!明日から朝はモーニングコールして迎えに行きましょうか?」
「いや、友達にそこまでされるのもなんかおかしいよね…?」
 心の底から真面目に言っていそうな獄寺の言葉に少々怯む。山本はその言葉を冗談だと取ったのか、楽しそうに笑っているが。
「目覚ましかけたはずなのに鳴らなくてさぁ…自分で止めちゃったのかな…?」
「ああ、やっちまう時あるよな…無意識にこう、」
 な?と山本が手を動かす。その手はぽすり、と獄寺の頭の上に落ちる。
「テメェはなに馴れ馴れしく人の頭に手ェ乗っけてんだよ!」
「や、時計の代わり?」
「ふざけんな!」
「ああああの、獄寺君は?朝早起き?」
 がたんと椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった獄寺の袖を引く。と、あっさりと彼は椅子に納まって綱吉を振り返った。
「そっスね…あんま寝起き良くはないですけど、悪くも」
「ああ…なんか不機嫌そうに起きるの想像できるかも」
 綱吉がそう言うと、山本も確かにな、と笑う。彼はどうにも眉間に皺が寄っているイメージだ。
「今日も朝、作業してる間中機嫌悪そーだったもんな」
「当たり前だあんなつまんねー作業!」
「あ!忘れてたけど…朝片付けだったんだろ?手伝えなくてゴメン…」
 確か文化祭の時に分けられた班ごとで片付けも行われてたはずだ。ということは、綱吉のいない分は自動的に同じ班員の2人に降りかかったのだろう。
「別にそんな大した仕事じゃなかったし、気にすんなって。な?」
「そうっスよ!雑用なんて全部山本に任せときゃいいんですって」
「って言いながら獄寺結構マメに動いてたよなー」
「うっせー暇だったんだからしょうがねぇだろ!」
「あのでもやっぱお詫びにさ、今日の昼の飲み物奢るよ」
「お、マジで?サンキュなツナ!」
「テメェはちっとは遠慮しろ!」
「いいんだって俺がしたいんだから獄寺君も遠慮しないで?」
 ね、と説得したところでふと気付く。

 あれ、お弁当忘れてきてないか…俺。









「しー。ランボ、静かに」
「っ!…、…!」




(scene 04 / with Lambo & I-pin)

「えーと、山本に牛乳で…獄寺君のお茶と俺の分は…」
 頼まれたものを確認しながら階段を駆け下りる。昼時はどうしても混雑する購買を目指す生徒は自然急ぎ足だ。
 飲み物を買うだけなら自動販売機でも事は足りるが、綱吉は自分の分の昼食も手に入れなければならないのだ。
 一緒に行くと言い張る友人をどうにか説得して独りで来たのは無駄な手間をかけさせたくなかったからだが、それで待たせてしまっても申し訳ない。
 最後の一段を飛び越えればすぐそこに購買だ。幸いまだ授業終了からそう時間も経っていない。購買の込み具合もまだ緩いものだと階段の最後の一歩を踏み出した綱吉の足は、だが床には着地しなかった。
「いぃっ!!」
「え?うわ!」
 声を上げた足の下のモノに気付いて綱吉は慌てて飛びのいた。
「おま、ランボ!?なんでこんなとこに…」
「良かったツナさん!」
「え、イーピンまで…」
 踏んづけたせいで背中にくっきりと靴跡が付いたランボから目を逸らせばそこには彼の幼馴染のイーピン。2人ともまだ中学に通う歳ではない。
「ツナさんがお弁当忘れていったので届けにきました!」
「え、あ、ありがと!」
「本当はランボが頼まれたんですけど、心配だったから付いてきたんです」
「…うわぁ…ホントにありがと…」
 こいつに頼んだらきっとまともな届き方はしていなかったに違いない。そう確信して、綱吉はイーピンに深く感謝した。
「じゃあランボ帰るよ」
「うぅ…酷いです…俺だってやれば出来るんです…それなのに来た途端踏まれるし…」
「それはお前がそんなとこに寝てるから…なんでそんなとこにいたんだ?」
「あっちの段差に躓いて転んだところにツナさんが降りてきたんです」
「…お前が弁当持ってたら大惨事じゃん」
「うぅぅぅ…」
「あぁもー泣くな!」
 泣き出しそうに顔を歪ませたランボに慌てて屈み込んだ綱吉はその腕を取って彼を立ち上がらせた。
「怪我は…ないな。痛いとこあるか?」
「…背中」
「ああ…踏んで悪かったよ」
 宥めるように背中に触れるついでについた足跡をさりげなく払う。
「あとほら、ランボ」
 彼を宥める為に持ち歩くようになった飴玉をひとつ。彼の好きな葡萄味をその手に落としてやる。
「ありがとうな、お前も」
「…うん」
 どうにか泣き出す前に収められた事に綱吉はほっと息を付く。何年か前だったらすぐに泣き出していただろうから、少しは彼も成長しているのだろう。
「そうだ。イーピンも、はい」
「え?」
 同じように葡萄の飴を手渡す。
 だが手渡されたまま動かないイーピン。
「あれ、嫌いだった…っけ?」
「ううん。ありがとう、ツナさん」
 首を振ったイーピンは嬉しそうにしていたので、綱吉はその反応を気にしないことにした。
「じゃあ先生達に見つからないように気をつけて帰れよ」
「はい!行こう、ランボ」
「えー…」
「ランボ!」
「あんまり長居するとリボーンに見つかるぞ?」
 諌めるイーピンの声と、綱吉の口から出た容赦のない奴ナンバーワンに輝く人間の名前に、ランボはびくりと身を震わせた。
「わ、分かった行く」
 イーピンに引っ張られるように去っていくランボに手を振って、綱吉は購買手前の自動販売機を振り向く。2人のおかげで後は飲み物を買っていくだけだ。
「獄寺君連れてこなくて正解だったな…」
 リボーン以上にランボと仲の悪い友人の名を呟いて、綱吉は苦笑いを漏らした。









「どう、しますか?」
「…そうですね」




(scene 05 / with Mukuro)

 青空がオレンジ色に染まれば景色も同じような色を滲ませる。
「もうこんな時間か…」
 自分の影が伸びる帰り道。なんとなく下を向いたまま歩いていた綱吉は、ふと隣りに増えたシルエットに気付いて顔を上げた。
「骸?」
「こんにちは、綱吉君」
 影だけ見るとますますパイナップルだなんて思ってしまったことは口には出さず、にこりと笑った彼に反射的に一歩下がる。
「…なんか用?」
 ここは並盛だ。そして彼は雲雀と仲が悪い。下手に一緒にいるところを見られると巻き添えで自分まで痛い目を見ることになるのが分かっているので、綱吉は周囲を気にしながら骸に尋ねる。
「用…というか」
「というか?」
「いえ。昨夜君の家にお邪魔したんですけどね」
「は?」
 初耳だ。しかし自分の家に彼が来たのだとして自分が知らずに済んでいるのはおかしくないだろうか。
「ゆうべ?」
「はい。ちょっと遊びに誘おうかと」
 何で夜に。迷惑な。というツッコミは喉の奥に堪えて、綱吉は骸の話の先を促す。なんだか嫌な予感がする。まぁそんな予感も彼に関してはいつものことだが。
「しかし君は既に寝ていたので、目覚まし時計を弄って起こそうかとしたんです」
「……え、」
「そうしたらそこに雲雀くんがやって参りまして」
「…げ…」
「前置きもなにもなしに喧嘩を売られたので言い値で買って差し上げたんですが、」
「もういい…大体分かった…つーかなんか色々お前のせいか…」
 がっくりと肩を落とした綱吉に彼が小さく笑い声を零す。笑い事じゃない。
「寝坊するし遅刻するし弁当も忘れたし…散々だったんだぞ今日」
「仕方ないじゃないですか。君が熟睡しているから悪いんですよ」
「夜寝るのは普通の事だって。なんで俺が悪いんだよ」

「ええ、夜寝るなら、ね」

 ふ、と骸の声のトーンが少し変わった気がした。
「…?」
「どうかしましたか?」
「いや、なんか…」
 何かがおかしいような、と首を傾げた瞬間だった。
 ぱちん、と小さな音が耳の奥に響いた。

















 目の前に、いきなりどアップの人の顔。
「ボス、起きた?」
 ばっちりとあった視線。声の主は目の前の彼女だ。それは分かったが、あまりの顔の近さに綱吉は瞬時に固まった。
「な、…え?」
「ボス真っ赤」
 白いシーツの波の上にちょこんと乗った彼女の首が僅かな角度傾けられる。その動きのおかげで、彼女の後ろに誰かいるのが見えた。
「おはようございます、ボンゴレ。もう夜ですが」
「は?え、骸?」
 手を突いて起き上がる。無意識にその動作をしてようやく、綱吉は自分がベッドに寝ていたことに気付いた。
「休暇を丸々睡眠に費やしてしまいましたね」
「…ええと…?」
「君がここのところお疲れのようなので僕が暗示をかけたんですよ」
 覚えていませんか?と問われて記憶を辿る。そうだ、久しぶりの休暇が取れたから出来るだけ効率よく休もうと思って骸にそんな事を頼んだような気がする。
「君が満足したら起きるようにしておいたんですが、まさか僕が起こしに来るまで寝続けると思いませんでした」
「勿体無かったかなぁ…」
 寝続けたせいか腕を使って伸びあがると体中がきしむような気がした。
「なんか妙な夢見てた気がする…疲れた」
「どんな夢?」
「んー…学校が出てきたような…気が、する」
 細かいところは忘れたけれど、朧げな記憶に残る何人かの人々。
「多分日中君を訪ねてきた人間じゃないですか?眠っていても外界を完全に遮断することは難しいですから」
「え。誰か来てたの?」
「ええ。全部は知りませんが…」
 骸達が知る限りを教えてもらえば、朝に護衛のために来た雲雀、その後様子を見に来たリボーン、仕事を携えてきた友人達に、遊びに来た子供などなど。
「起こしてくれても良かったのに…」
「雲の守護者は仕事のしようがないって出てって、他の人も起こす気はなさそうだった」
「アルコバレーノがとても呆れていましたけれどね」
 骸の言葉に、また後で説教かなと項垂れる。それに山本や獄寺が持ってきた仕事も気になる。
「でもとりあえず、サンキュ骸」
「誠意は態度で示してくださいね」
「分かってるって…休暇でもなんでも望みのもの出すよ」
「じゃあこの前同盟組んだ組織の幹部構成教え、」
「却下。何する気だ」
「クフ」
「笑って誤魔化すなよってか誤魔化しになってないからな」
 怪しく微笑む骸にツッコミをいれた綱吉は、彼に訊くのを諦めて比較的まともなもう一人の方へと質問を向けた。
「…今度ちゃんとした休暇とって、ボスと一緒に買い物行きたい」
 少しの思考の後にそう願われた綱吉は、そんな事でいいのかと目を瞬く。
「そうですね。無能な綱吉君は休暇を取るだけでも精一杯でしょうしね」
「悪かったなどうせ仕事遅いよ」
「ところで仕事の遅い綱吉君、今日の夜はキャバッローネと会食では?」
「ッ…そういうのはもっと早く言えって!」
 慌ててベッドから飛び降りた綱吉はクローゼットの中を覗き込む。
「…起きたかダメツナ」
「あ!リボーン丁度良かったちょっと服選んで!」
「ようやく起きたんだ?…あいつだったら別に待たせようと構わないんじゃない?」
「構いますヒバリさん!ってあれヒバリさん?」
「何?」
 ドアの前に佇む彼に既視感を覚えつつ、反応の薄さに驚いて部屋の中を見回せば骸達はいなくなっていた。いつの間に。
「これはどーだツナ」
「…いやコレどう見ても女物…っていうかなんで俺のクローゼットにそんな物が入ってるんだよ…?」
「俺が入れた。ディーノならきっと喜ぶぞ」
「いくらディーノさんでも冗談キツイだろ!」
「ちっ…」
「舌打ちすんな!こっちのでいいよな?あ、あと獄寺君達が持ってきた仕事って…」
「それは明日に回した。タイ曲がってんぞ」
「車の中で直す!行ってきます!」
「…ガキかテメェは…。頼んだぞ、ヒバリ」
「分かってるよ」
 慌てて駆け出した綱吉の背後で呟かれた言葉にまだ夢を引きずっているのかと苦笑する。覚えてはいないし妙な疲労感は残っているけれど、彼らがいたならどんな形であれそれはきっと幸せな夢だったのだろうと、綱吉は勝手に思うことにした。
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なんだかぐだぐだ…。
単純にリボーンが普通に先生してたら楽しかろうなとかヒバリさんが同居してたら恐いだろうなとかそんな妄想から出来上がったわけですが。いっそ潔くパラレルにしちゃえばよかったのか…?;;


071009