Spring has passed, without falling



窓の向こう
 - 綱吉、雲雀、(イーピン)

チョコレートミント
 - 雲雀、綱吉

春物ワンピース
 - 綱吉、リボーン

淋しさと共に。
 - イーピン、綱吉

だれかの恋物語
 - 雲雀、綱吉


titles from sham tears : thanks!
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窓の向こう
 廊下の左手は窓が、右手にはドアが並ぶ。
 等間隔に乱れることなく静かに佇むこの空間を歩くのは案外楽しい。静まり返った扉と窓との間を夜中に一人で歩くのはさすがにいささか恐怖を感じるが、今は昼。麗らかな太陽の恵みが降り注ぐ窓から見上げる青空。こんな爽やかな陽気の日にデスクワークを詰められている綱吉はただ散歩代わりに窓越しの庭を楽しんでいたのだ。そしていつも通りその廊下を行過ぎるだけのつもりだった。その視界に割り込む人影さえなければ。

 人影はふたつ。
 綱吉は、そのどちらにも見覚えがあった。

 目線の高さを切り取る透明なガラスから伺う庭には、目に優しいグリーンと、その中に浮かび上がるような黒と、白。
 綱吉のいる場所の方が高所にあるため、少し距離があっても全景は一瞥するだけで把握できた。滅多にない組み合わせだな、とぼんやり思う。なにより彼女がこの敷地の内側に存在している事が珍しい。
 声は聞こえない。唇を読むなんて無粋な真似をするつもりもない。ガラスが一度途切れ、壁を挟んで次のガラス。ほんの僅かに角度を変えた景色はけれど先程と大差なくそこにあった。
 距離感と雰囲気を読むだけでも緊張感が漂っているのが見て取れて、綱吉は少し目を逸らす。見ているその状況がどう変わっても奇妙な気がしたのだ。何を話しているのかなんて知りはしないが、片方の淡い想いを悟っている身としてはなんともむず痒さを拭えず、そしてもう片方の気性を知っているからこそ今より先の状況を予想できない。
 しかし下手な推測や闖入は本意ではない。気になりはしたが、関わるのはどうにも気が引ける。ガラス窓はあと二枚。壁の手前でまた一度見た景色はやはり変わらず、しかし次の窓に移る頃には人影がひとつ減っていた。足速いなあ、なんて感心もするが一瞬で姿を消した彼女の行く先も少し気になる。だけど今ここから追いかけるのは難しいどころかまず不可能だ。
 そんななりゆきで一人緑の中に残った黒をぼんやり見ながら続き綱吉は願った。どうか彼がこちらを向きませんように。そんな風に願う時、大概の人は上手くいかないことを頭の隅で予感している。綱吉も例外ではなかった。
 歩を進め壁の影へと綱吉が身を隠す前に彼の眼がこちらを捉えたのが見えた。そしてそこに一瞬浮かんだ表情に綱吉は苦笑する。さあこの窓で最後だ。
 普段あまり開かれる事の無い廊下の端の窓の前に立ち止まり、綱吉は固くなって軋むその窓をどうにか開いた。

「ひばりさーん」

 言葉の応えはなくとも、彼に聞こえているのは分かっていた。こちらを向いた相手に綱吉は続けて告げた。
「デートしませんかー?」
 午後の仕事が待っている。つまりこれはサボタージュのお誘いだ。
「そんな所から叫ぶとすぐにお目付け役が来るよ」
 呆れたような言葉に綱吉は窓枠に足を掛けた。廊下から窓、そして真下の地面へと危なげなく着地して綱吉は手を叩いた。
「じゃあ早く行きましょう」
 了承の言葉を聞く前にそう言っても彼は怒らなかった。
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ツナは仕事で徹夜が続いててちょっとハイ。












チョコレートミント
 仕事を置いてまんまと抜け出してきた綱吉は、街角で売られていたジェラートに目をつけた。
 一番小さなサイズを選んでも随分な量を盛り付けてくれるその店は、コーンの上をいくつかのジェラートで彩り綱吉に手渡してくれた。
 食べ歩きの行儀の悪さを咎めるような視線が一瞬横から向けられたが、特に注意は無かった。これ見よがしの呆れのような溜息は吐かれたが。
「食べますか?」
「いらない」
 予想通りの答えを貰った綱吉は美味しいのにな、と残念がりつつも無駄な勧めは諦めた。
 人のまばらな通りのウィンドーを冷やかしながら歩くのに、この人ほど向かない人物はいない。というか昔では考えられない事だな、と綱吉は考えながらジェラートに口をつけ、ふと向かいの通りの店先に目を留めた。
「あ、」
 零れた声に隣りを歩いていた人が面倒そうに自分の視線を追った。そして追いかけた先を見て、僅かに眉を顰める。
「なに?」
「ショーウィンドーの、ワンピース」
「それが?」
「リボーンに似合いそうだな、と」
 そう思うままに口にすると、雲雀は訝しげな視線を綱吉に向けた。
「君、彼にそんなことさせてるの?」
「そんなこと?」
「女装」
「いや、俺がじゃなくてあいつが勝手にやってるんですけど」
 そこを誤解されると物凄く困る。綱吉は嫌な汗をかきつつ慌てて訂正した。
 そういえば彼はどこからあの変装グッズを手に入れているのだろう。浮かんだ疑問は案外あっさり予測がついた。多分四次元ポケット並みに利用されてるボンゴレ内部のどこかだろう。特殊武器から謎の生き物まで生み出すボンゴレ所有の技術開発機関はリボーンが望めばそれこそ本当に四次元ポケットでも作りかねない。ファミリーのボスは綱吉の筈なのに一番好き勝手に使っているのは確実に彼だろう。
 うんうん、とひとりで勝手に考え頷いている綱吉の歩みが遅れ気味になるのを見越したかのように雲雀は綱吉の腕を取って件のショーウィンドーの前までやってきていた。そこで立ち止まった雲雀にようやく綱吉も気がついて伺うように相手の顔を見やる。
「ヒバリさん?」
「買っていきなよ」
「え…?このワンピースを、ですか?」
「うん。どうせ帰れば怒られるわけだけど」
 これでご機嫌でも取れってコトだろうか。考えて、綱吉は即座に違うと悟った。こんなもの渡した所で怒りが減るどころか寧ろ増えそうな気がする。

「彼の反応見てみたいし」

 やっぱりそれが本音ですか。
 半ば予想していたので綱吉はぬるい苦笑いを零すだけに留めた。


 でも確かにリボーンがどんな反応するのかは気になるかも。


 綱吉はウィンドーに飾られた新作を見上げて思った。哂うか怒るか呆れるか。どれもやりそうだ。差し出した瞬間蜂の巣にされる可能性もあるが、それでもやっぱりきっと似合うだろうな、という気持ちが捨てきれない。
「じゃあ買ってきます」
 少し持っててもらえますか、と綱吉は手の中のジェラートを雲雀に差し出した。店内は飲食物持込禁止だ。
 しかし雲雀の手に渡ったジェラートの端が少し融けかけている。とりあえずそれを舐め取り、綱吉はもうひとつ言葉を付け加えた。
「融けそうなら食べてください。あ、ヒバリさんにはチョコミントがオススメです」
 すぐに踵を返した綱吉を見送った雲雀は、まだ手付かずのチョコミントの意味を悟ったのか仕方なさそうに一度は拒んだそれに口をつけた。
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春物ワンピース
 自室のドアを開けて僅か三秒と経たず。背後を取られたと気付いた時には既に後頭部に硬いものが押し付けられていた。
「どこぞの女に貢物か?いいご身分だなぁ、ボス」
「…リボーン」
「久しぶりに強制死ぬ気で仕事してぇらしいな」
「滅相もないです」
 背後から流れてくる冷ややかな空気が首筋に怖気を走らせるものだから、大人しく持っていた荷物ごと両手を挙げる。
「ごめんでも一昨日から部屋に缶詰状態でちょっと息抜きしたかったんだよ…」
「テメーの気分なんて知るかダメツナ反論する気なら加熱殺菌して見事なツナ缶にするぞ?…そうだないっそフレーク状になってそこらの猫に美味しく戴かれて来い」
「ひど!なんでお前そんなにピリピリしてんの?」
 振り向こうとすると、押し付けられていた硬いもの――― 拳銃の銃口が今度はこめかみにぶつけられた。結構痛い。
「仕事から戻った途端に『10代目が』を繰り返す野郎に半泣き状態で縋り付かれたウザさといったら向こう一年原因をいびり倒したって解消できねぇぞ」
「えぇ!?ちょっと理不尽じゃないのおま…すみませんなんでもないです」
 ごりごりとこめかみを圧迫する痛みに綱吉は呻いた。
「今日中に残った仕事全部片付けろ。コンマ一秒でも遅れたら…」
「…遅れたら?」
 恐る恐る、と尋ねた綱吉にリボーンは無言でにやりと笑っただけだった。

 うわ不吉なくらいイイ笑顔だな…。

 その顔を見ただけでちょっぴり涙が滲みそうな綱吉だったが、ようやくこめかみから退いた銃口にほっと安堵の息をつく。
 そしてようやく下ろせた手の中の物に気付く。ブティックの袋だ。
「そうだ。はい」
「…は?」
 袋ごと差し出すと、訝しげな視線が返ってくる。
「お土産」
 押し付けるように渡せば、リボーンは無言で袋から箱を取り出して中に淑やかに寝かされていたワンピースを助け起こした。
「リボーンに似合うと思ってさ」
 黒のワンピースドレス。スカートは光沢のあるフリルが幾重にも重なりささやかな広がりを作るが、逆に首周りや袖はまったく飾りがなくシンプルな物だ。
「俺にこんな物買って寄越すのはお前くらいだぞ」
「…そう?」
「ああ。あと、プレゼントならシーズン最先端持って来い」
 そういえばもう夏物の新作が出されている頃か。いまいち疎い綱吉へのダメ出しを忘れないリボーンは、そう言いながらも箱の中から引っ張り出した服を手の中で弄り回している。
「…気に喰わない?」
 反応を窺って縮こまっていると、リボーンはいいや、と楽しそうに否定した。
「気に入った。存分に使ってやるぞ」
「………。使っ…てやる?」
 なにか言葉に引っ掛かりを覚えて綱吉が繰り返す。着てやる、じゃなくて使う、と言うのはつまり。
「俺は女装しても魅力的だからな。今度変装した時に寄ってくる奴がいたら『ボンゴレボスのプレゼントだ』って自慢してやる」
「え、…あれ、それってさぁ…」
「恋する男は理性が疎かだからな。夜道に気をつけろよ、ボス」
「…いやまさかそんな事でボンゴレのボスにわざわざ手を出す人なんて…」
 いないだろ、そうだよな、と確認のように口に出すが相手がリボーンだと思うと常識的な確信も根こそぎ脆く崩れ落ちる。
「素敵なプレゼントのお返しは何がいいんだボス?」
「え、それで充分じゃないの…!?」
「遠慮するな」
「いやいやそこはするよ!」
「わざわざ雲雀連れ出してまで買って来たんだろ?礼を欠くわけにはいかねぇぞ」
「いつばれたんだってかホントもう真剣に許してくださいスミマセン仕事するから!」
 酷く上機嫌に笑うリボーンの真意が見えるようで必死に綱吉は謝り倒したが、それぐらいで許してくれる優しい先生ならきっと自分はここに居ずに済んでいた筈だ。
 予想以上に手酷いしっぺ返し。しかし書類が見えないと仕事にならないので、涙を堪えた綱吉は笑顔の少年から目を逸らして自分の椅子に着座した。
「ああそうだ。イーピンから会いたいって連絡入ったらしいぞ?」
「いつ?」
「明日。その仕事今日中に終わらせる自信があるなら約束してやれ」
「…りょーかい。頑張ります」
 鞭を喰らわず飴を口にする為。なけなしの集中力を掻き集め、綱吉はペンを手にした。
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淋しさと共に。
 出されたグラスに口をつけると中身は麦茶だった。重厚な雰囲気の漂うこの部屋には似合わないそれだけど、自分だって同じくらい場違いなのだ。本来なら。
「おかわりもあるよ」
「ありがとう」
 まるで日本で、彼の住んでいた家のリビングにでも招かれたような気安さが満ちていて心地がいい。部屋の佇まいには合わないのに、それを無視してのんびりとした気分にさせてくれるのはこの部屋の主だ。
「すぐにこっちに来なくてゴメンなさい、沢田さん」
「いいよー。半分俺の都合だし」
「でも…」
 自分は本来ここにいるべき人間じゃない。自分で望んでこの世界から立ち退いたのに、何食わぬ顔でここに座っているのはおかしい筈だ。なのにそれが許されるのは彼が彼であるが故。優しさに甘えているのだ。

 イーピンだったらいつでも歓迎するよ。

 それはきっと偽りない言葉なのだろうけれど、そうほいほい鵜呑みにしていい言葉ではない。彼の為にも、そして自分の身の安全の為にも。自力で身ひとつ守れなければ、周りに迷惑がかかってしまう。それだけは避けなければならない。
 そんな葛藤をきっと見抜いている彼は、だけどそれには触れずにひとつ笑うと唐突とも言えるタイミングでイーピンに向かって爆弾を投げた。
「ヒバリさんには会えた?」
「へ?」
 瞬間、挙げられた名前のせいで空調の存在などないも同然となった。自分の周りだけ熱を帯びているみたいに暑い。火照った頬に片手を当てるとやはり熱い。
「あ、あ、あ…」
「あ?」
「…会えました」
 観念して答える。その反応に柔らかな笑みがそのまま少し苦味を帯びる。
「まだ告白は無理かー」
「沢田さん!」
「ん?」
「あたしは、そんなつもりは、」
「うん。ないだろうけどさ」
 こうむず痒いって言うか、青い春っていいよねぇ。
 笑顔を浮かべて言う彼は、高いスーツに身を包んだ若いながらもそれなりの威厳を持ち合わせたマフィアのボスなはずなのにこういう時は縁側で日向ぼっこしてるおじいさんみたいにも見える。
「からかわないで下さいよ」
「まぁ応援するまでは出来ないけど、見てて俺はちょっとした幸せを感じているわけ」
「…見てたんですか?」
「あ。はははー」
 うっかりと告げてしまった事実を笑って誤魔化そうと浮かぶのは、昔とほとんど変わらないか弱い表情。
「知ってて訊くなんて意地悪ですね」
「楽しみが少ないものだから、つい」
 ごめんなさい許してください、と一回り程年の離れた子供に丁寧に謝罪までする彼はとてもじゃないけどイタリア屈指のマフィアの頂点に立つ人間には見えない。
「…許してあげます。その代わり、暇が出来たら後で遊んでくださいね」
「暇が出来る保障は出来かねるけど、それで良ければ」
 頼りない返事に膨れっ面ももう保てなくなって、イーピンは吹き出した。
 それにつられるように微笑んだその表情だけが、なんだか少し大人びたように見える。
「まぁ…ゆっくりしていってよ」
 時間の許す限りは、と独り言のように続く言葉。変わらないようだからこそ、そんな些細な変化が妙に遠く離れたように見えて、少しだけ寂しくなった。
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だれかの恋物語
 恥に耐え、涙を呑み、意を決して綱吉は彼の前に立ったのだが、相手がまるで動じる事もなくいつもどおりの様子で用件を訊いてくるので思いの外すんなりと話は進んだ。
「ちょっと付き合ってもらえませんか」
「…」
 一瞬思案するように黙した相手は、やがて酷く楽しそうに唇に笑みを乗せて頷いた。




 それからすでに小一時間も経っている。綱吉も既に現状に慣れ始めていた。長年理不尽な環境に置かれ続けたせいか、綱吉の諦めの早さと適応能力の高さがこの地のマフィアの中でトップクラスなのはランキング星の王子様に尋ねずとも確信できている。
「それでリボーンの奴が…」
「君、さぁ」
「はい?」
「ホントあの子の話しかしないね」
「だって獄寺君とか山本の話するとヒバリさん怒る…ッ、待ってください名前出しただけですから!」
「甘やかしすぎじゃないの」
「リボーンですか?いや俺が甘やかしてるっていうかあいつが横暴っていうか」
「拒否すればいい話じゃないの」
「出来るわけないじゃないですか」
「その格好のままこんなとこまで来ておいて愚痴るのもおかしいと思うよ」
「もうなんか色々どうでもいいかなぁとか思い始めまして、」
「酒盛りする暇あるなら寝たら、ボス。隈酷いよ」
「ベッド今アイツに占領されてるんですよ…」
「一緒に寝れば?」
「俺まだ死にたくありません」
 はあ、と息を吐いた綱吉の憂鬱など気にも留めずに雲雀は吟味でもするように向けていた視線をふ、と細めた。
「っひゃ、ちょ、な、にするんですか雲雀さんいきなり!」
「随分上等な生地だと思って」
「そう…なんですか?」
「着てて分からない?」
「…精神的に着心地が悪いんで…」
 唐突に触られたのが妙にくすぐったいポイントだったために変な声を上げてしまった口を押さえ、くぐもった声で綱吉が答えるのを雲雀は楽しげに眺めている。これはもしかしなくても確信犯だ。
「なんで雲雀さんはまったくお咎めなしで俺ばっかりこんな…」
「まあ僕は言われたところで力ずくで拒否するよ」
 それはそれで楽しそうだ、と笑う雲雀にそれが原因かと綱吉は思い至る。喜ばれては咎めにならない。
「それに君は良く似合ってるしね」
「…本気で言ってますか、それ」
 胡乱げな眼を向ける綱吉に何を思ったのか雲雀は飲みかけのグラスから唇を離し、不躾なくらいの視線を綱吉に浴びせてから嫣然した笑みを口元に刷いた。
「似合うよ、綱吉」
「へ?」
 改めて言われた言葉に間の抜けた声を上げる綱吉。その顔にいつの間にか伸びてきていた雲雀の手が触れる。
 頬をするりと撫でてから何気なく指で顎を持ち上げられれば雲雀の端整な顔がすぐそこにあった。
「え、」
「可愛い」
「っ…!」
 顔色を変えた綱吉を見て、雲雀は喉を鳴らすように哂って手を離した。
「顔色悪いね」
「誰のせいですか…」
 ソファの肘掛に突っ伏して綱吉は呻く。一瞬頭の中が真っ白になった。
 ちょっとイーピンの気持ちが分かるかもしれない、と懸命に修復作業を行う頭の中で思う。こんなの見たら爆発したくもなる。
「…雲雀さん」
 ふ、と思いついて名を呼ぶと今度こそグラスに唇を奪われていた雲雀は視線だけでそれに応える。
「初恋っていつですか?」
「随分唐突だね」
 思ったよりも柔らかな反応だった。鼻先で笑い飛ばされるとか素気無い返事を綱吉は覚悟していたのだが。
 薄っすらと浮かんだままの笑みに増長させられ、綱吉は言葉を継いだ。
「初恋は実らないって言うけど、雲雀さんはどうなのかなぁと思って」
「ふーん…どうだろうね」
「…?もしかして覚えてない、とか?」
 首を傾げた綱吉に、雲雀は意味深な表情を向けた。
「散らない春ほど酷なものはないとは思うよ」
「…は?」
 すぐに耳を通り過ぎてしまいそうな声。思わず目を瞬くが、雲雀はそれ以上の何かを付け足す気配さえない。
「どういう意味ですか…?」
「さぁ」
 自分で考えなよ。あっさりと投げ出された疑問を掬い上げる事も出来ない綱吉は、鈍い頭の回転数を慰めるように甘い酒を舐めた。
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ツナがどんな恰好しているのかはご自由に想像してください。
納得してる報われない恋の話を書きたかったんですがなんか色々半端なまま終わる。(…)










2007 0605(1) / 0606(2) / 1117(3) / 1018(4) / 1209(5)