夢の中の罪。
 - リボツナ

今すぐにキスをして
 - 骸ツナ : 微エロ

いつまでも消えないキスマーク
 - ヒバツナ : 流血

コンプレックス
 - ランボ、ツナ

罪悪感の残る仕事
 - リボ→ツナ : 死ネタ (当人以外)

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夢の中の罪。
 息苦しさと自分の嗚咽で綱吉は目を覚ました。そんな目覚め方はもちろん心地よいとは言い難い。
「あ、れ…」
 胎児のように丸く。横を向いて寝ていた自分の目頭から零れた雫が鼻の上を通って隣りの目の下をなぞって枕に吸い込まれていく。ひくり、と無意識に喉が引き攣れた。
 こんな泣き方をしていればそれは息苦しいだろう。止まらない嗚咽をひとつひとつ殺して思い出す。少し前の夢の中のことを。


『どうして泣くの?』


 口元に刷いた笑み。答えを知っていてそれを訊くのはやめて下さい、そう思いながらも声にはならない。溢れる涙に顔を覆った。彼を詰りたいのではなく、ただ純粋にその問いがつらかった。ヒバリさんは酷い。今更だけど。
 いなくなってしまったんです。つまり、温もりを失って。俺だけじゃない、誰にも、もう触れられる事はないあいつは、もう亡い、んだ。
 喪失した事だけが頭にあって、それを言葉に正確に映す事は出来なかった。もどかしい。もがくように喘ぐように空気を求めて目が、醒める。
 久しぶりに見たなぁ、ヒバリさんの顔。夢の中だからか今よりなんだかほんの少しだけ幼く見えた。小さく笑う。そんな事を考える余裕が出来た。どんなに泣くほど悲しくてもそれは夢だった、から。
 部屋に近づいてくる気配に気付いて、綱吉は涙を拭った。どれだけ不吉な夢を見ようとも、今日あいつが死ぬなんてそんなことはないだろうし。夢の内容の割にはあっさりと綱吉は濡れた枕から身を離した。でないとノックもなしに部屋に入ってきた相手の反応が恐い事になりそうだと予感したから。

「おはよう、リボーン」

 努めてなんでもなかったかのように振舞ってはみたが、それは無駄な努力に終わったらしい。相手の顔を見ればすぐに分かった。大した表情の動きなんてなかったが、さすがに長い付き合いで察する力は随分ついた。
「どうした?」
「なんでもない」
「だったら『なんでもない』って顔してろ」

 言葉と表情が合ってねーぞ、ダメツナ。

 自分はこれで精一杯なのだが、見破られるなら意味がない。見て見ぬ振りをすればいいじゃないか、なんて愚痴は言わせてもらえるはずもなし。
 相変わらず厳しい教師に、綱吉はくすり、と笑ってベッドから抜け出した。
「じゃあリボーンのせいだよ」
「は?」
「お前が夢の中で俺を泣かせるから」
 綱吉の言い分に呆れの視線が向けられた。
「責任持って慰めてよ」
「テメェの夢の中まで責任なんて持つか阿呆」
 突き放すように言いながら音も立てない死神の足は真っ直ぐ進む。そしてトレードマークの黒い中折れ帽を片手に取って、正に慰める仕種でキスがひとつ瞼に落ちた。
「愚図らず朝くらい自力で起きろ」
「心がける」
 苦々しげに言われても、その言葉の裏にほんの僅かでも優しさを見つけてしまえば効果も薄いと綱吉は苦笑した。
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拍手お礼。寝起きの涙は非常に疲れる。












今すぐにキスをして
 暑い。
 今、綱吉の頭を支配するのはただその一言だった。
 季節は冬だ。まごうことなく真冬。部屋の中に暖房など入れた覚えもなく、しばらくは人気もなかった自分の部屋は冷え切っていたはずなのに。
 それでも暑い。途方もなく。
 我慢大会の会場か、というぐらいに無駄に暑い。
「そそられる表情ですね」
 自分の上に乗っかっている人物がなにやらさっきから変態発言をしている。朦朧とした頭で綱吉は現状把握を試みた。どうして、自分は、どうしたのだろうか?
 肌触りのいいシーツ、心地よい弾力のスプリング、両手を伸ばしても余裕を残す広いベッドは既に使い慣れた自分の所有物だ。そんなところから思い出し始めるのは、ひとえに綱吉が現実から逃避気味だということを示していたのだが、それを指摘する人間はここにはいない。
「っあ、く…」
「少し気絶していました。覚えてますか?」
「待、う、ぁ…うご、く…な」
 相手の何気ない動きでまだ繋がったままだという事に気付く。綱吉は喉の奥で呻いたが骸はそれを笑って無視した。
「てか、お前、もしかして、」
「はい?」
「じごくどー、使っ、る…?」
 冷えていたはずの部屋の空気。体温の上がった自分にはよりいっそう冷たく感じられた気温が急に春を通り越して夏どころか赤道直下の勢いだ。火照った体が余計に熱くなって体温調節に忙しい脳味噌が汗と一緒に溶け出しそうだ。
 幻覚だ、と思っているのにそれを拭うだけの力が今の綱吉にはなかった。億劫ながら伸ばした手で相手の顔に触れれば、案の定その肌は恐いくらいに冷えていた。
「…ずるい…」
 吹き出た汗のせいで滑る感触。さらには汗に混じって白濁が散っている辺りは粘度が増していて僅かな不快感は否めない。しかしそれすらどうでもよく思えるくらいに暑さが綱吉を蝕んでいた。
 綱吉は今度は両手で骸の顔を挟んで引き寄せた。力の入らない両腕は重力を従えて骸の身体を引き倒す。抵抗されればすぐに外れただろう腕は、目的を違えずに相手を連れてきた。
「むくろばっか涼しい」
「僕はどちらかといえば寒いんですが」
 笑声を混ぜた声が楽しげに不満を零す。なら丁度いいじゃないか、と綱吉も笑った。
「きすみーぷりーず」
 茹った脳で呆れるくらいの日本語発音。そんな言葉しか思い浮かばなかった。
 本当は冷たい水が欲しいところだったけれども。
「喜んで」
 氷のように冷たい唇が、逆上せた言葉を冷やすように降ってきたから綱吉はそれで我慢する事にした。
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予想とは違う話になりました。(どんな予定だったんだこの短さで)












いつまでも消えないキスマーク
 耳元に吐息がかかる。
「っ、ヒバリさん…?」
 く、と喉を鳴らすような笑声が近すぎる距離から漏れるのを聞いた、と思った瞬間だった。


 ぶち、


「っい、ぁ…!」
 嫌な音が身体に響いた。多分、皮膚が千切れる音だったのだ。じんじんと痛みを訴える箇所がどこなのか、すぐには判別できなくなるくらい、痛い。
 他にもなんだか物凄く不吉な音がした気がしたけれど、綱吉の神経には律儀にその音を拾っていられる余裕がなかった。
「な、ぁ、っに、す…、いぃ!!」

 何するんですか痛いじゃないですかヒバリさんどうしたんですか何してるんですか人の耳に!

 ぐちゃぐちゃ頭の中で言葉がこんがらがる。声にならない。
 さらにはあまりの痛さに視界がじんわり滲んできた。世界がパレットの上に広げた絵の具みたいに輪郭を溶かしてしまって、どれがなんなのか分からない。
「っ、あ、ヒバ、リさぁん…」
 じんじんとした痛みにだんだん慣れてくると、次に感じたのは耳を這うねとっとした温かい触感。痛みに大混線を起こした聴覚がようやく戻ってきたかと思えば、なんだか変な水音が耳元でしている。
 これは、あれだ。なんていうか、その。
 ぴちゃ、ちゅく、と音を立てるものがなんなのかに思い至って、綱吉は別の意味で泣きそうになった。
「ひ、ばり、さん、」
「はに?」
 くぐもった声が皮膚に響く。
「痛いんです、けど」
「ふーん?」
 楽しげな声と一緒に、耳朶に堅い感触。噛まれた、と悟る前に声が上がっていた。
「っな、にして…!」
「痛い、だけ?」
 ちゅ、となにかを吸い上げるような音がした。と、同時に本当に何かが吸い取られた気がする。ただ皮膚だけだったらこんな感触はしない、と思う。
 聞こえる声がクリアになったことで綱吉は雲雀が口を離したことを知った。だけどその割りに、濡れた感触がいまだ思ったより温かいのはどうしてなのか。
「快感って、結局痛覚の延長だって、知ってた?」
「初耳、です」
 また。くつ、と喉の奥で笑う声。再び舌が綱吉の耳朶を這った。
「なに、したんですか。ヒバリさん」
「穴開けたの」
「あな、あけ…え。え!?どこにですか!?」
「ここ」
 つん、と舌先で突付かれたのはさっきから弄られている耳朶だ。ということは。
「げ、俺の耳もしかして今血まみれ…!」
「だから舐めてあげてるでしょ」
 そういう問題じゃない、と叫びたかったけれどもこれ以上穴を増やされるのも御免だったので綱吉は賢明に黙った。
 言われて意識してみれば、確かに舌が触れる辺りの感覚がおかしい。そう思った途端、ぞく、と背筋になにかが走った。
「ひ、ぁ、!?」
「慣れてきたみたいだね」
 甘噛みされて、また血が吸われた。気持ち悪いはずなのに、痛いはずなのに、それが繰り返されてる内に全然別のものになりつつあるのが本能で分かる。
「あ、ぃたぁ…ちょ、と、まって、ひばりさん!」
「ここにさ、あとでピアス、入れようか」
 ピジョンブラッドの。小ぶりなのがきっと合うよ。
 なんでもないことのように店先で洋服選んでる気軽さで。なす術も無い綱吉はされるがままに、ただこくこくと控えめに頷いて背筋を這い回る感覚と闘うのが精一杯だった。


 後に耳に穴を開けられてしまった経緯を知った家庭教師殿は呆れたように綱吉に言った。
 それはただのとんでもなく熱烈なキスマークだ、と。
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ボスではなくとも数年後かなぁ、と思いつつ。












コンプレックス
「多分家に殆ど父さんがいなかった分、さ」
 ゆっくりと、まるで自分にさえ言い聞かせているかのように緩やかに、彼は語りだした。
「一種コンプレックスだったのかもって今になって思うんだ」
 まあ、あの頃はそれこそ劣等感なんて掃いて捨ててもまだ余るくらい持ち合わせてたからあんまり自覚してなかったんだけど、と無味乾燥気味の笑い声を挟んで、すぐそこにいる彼は僅かに俯いた。その顔を伺うことは出来ないけれど、想像はついた。
「リボーン達が来てからはそれどころじゃなかったし」
 少し困ったように伏せた目で、きっと彼は自分の“ファミリー”に思いを馳せているに違いない。血縁ではなく、もっと別なもので繋がった人たちのことを。
「でも、だからこそ俺にとって“ファミリー”は大切なものだよ、今は」
 顔を上げた彼は、柔らかに微笑んでいた。


 お前もだよ、ランボ。


 優しげに細められた目に見てもらえて嬉しい反面、ランボは納得のいかない気持ちを抱えて地団太を踏みたい気分だった。
「お前のファミリーはボヴィーノだって分かってるけど。そういう意味じゃなくて」
 そう彼は、ボンゴレ10代目は、沢田綱吉は、自分のゴッドファーザーではない。それを望んでいるんじゃない。そんなこと望んじゃいないんだ。
 叫びだしたいのにそれは叶わず、ランボは唇を噛む。彼はそれをとりあえず何がしかの不満の表出と取ったのか、まだ彼よりは少し低い位置にあるランボの頭を撫でた。彼に抱き上げられなくなったのがいつのことだかもう自分は覚えていない。
 きっと他のファミリーや守護者の立ち位置とは違うところに自分は立つ事を許されている。だけどそこすら自分の望む場所ではないのだ。
 優しい手を離したくは無いのに振りほどきたいと思う気持ちは、自分の手にはまだ余る指輪を分かっていながら指に潜らせる衝動に似ている。結局は幼い指をすり抜けて床に零れ落ちるそれを見る度泣きたくなるのも分かっているのに。
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ただ焦がれる。(恋じゃないのに愛より性質が悪い)












罪悪感の残る仕事
 独りにして、と彼は望んだけれど立場上それを叶えてはやれない。
 それを彼自身も悟ったのか、しばし考えて彼は少し望みを変えた。

「リボーンは連れて行くから」

 それでもやはりその後ろには独りにしてくれ、という望みがついていた気がする。
 そして実際、墓石の前に立つ彼はどうしようもなく独りぼっちに見えた。リボーンの存在なんて在って無きが如く。自分の存在を相手に悟らせないようにするのは慣れているが、今のこの状況はそれとはまるで違う。
 かれこれ数十分、そこに立ち尽くしているヤツがなにを考えているのか。知ろうと思えば出来るそれを読むことはしない。読みたくない。
 マフィアになんて関わらなければ。そんな仮定が成り立てば受ける傷はきっと少なかった。考えるまでもない。分かりきっている事だ。その上で自分は彼をこの世界に引きずり込んだ。それが依頼だったから。悔やんでなどいない。たとえ幾度彼に恨み言を言われても後悔なんて覚えなかった。仕事にいちいちそんなもの覚えていたら生きていけない。

 だけど。


「ツナ」


 タイムリミットを告げるように彼の名を呼ぶ。シカトされるかと思ったが、案外あっけなく彼はこちらを振り向いた。
 そこにあるのは涙でもなければ怒りでも、憎悪でさえなく。
「付き合わせてゴメンな」
 いつも通りに気の抜けた、彼の顔だった。
 少し距離を置いて彼の後ろに佇んでいたリボーンの方へ、そうして彼は何事もなかったかのように足を踏み出す。街中を普通に歩き出すかのようなその態度が、逆に自分に違和感を与えているとも知らずに。
 あまりにもじっと凝視していたせいか彼はリボーンの前で立ち止まって僅かに苦笑した。
「………、」
 何かを言いかけた口はけれど何も告げずに、代わりとでもいうように彼の右手がリボーンに伸びる。
 いつもならば容赦なく叩き落すその手を拒まずにいれば、それはリボーンの頬に触れた。
 触れてしまえた事に僅かな驚きを見せながらも、躊躇いがちな彼の指先は触れたその頬を少し摘んで、すぐに放した。
「冷えてる。帰ろ」
 重力のままにするりと落ちる彼の手。リボーンは気付けばそれを掴んでしまっていた。
「リボーン…?」
 掴んでも、どうしようもなかった。リボーン自身なにをしたかったのか分からない。
 手を掴んだまま俯いてしまったリボーンの顔は帽子の縁に隠される。しばらく無言で様子を伺っていた彼は、不意に掴まれたその手を掴み返してきた。
「俺は、骸と違って復讐とかに燃えるタイプじゃないんだ」
 知ってるだろ、と続けるその声は冗談を言っている風でもなく。無理をしているようにも見えない。
 だから告げられるそれは単純に事実なのだろう。
 少しの間を挟んで、なお無言を通すリボーンに困惑を滲ませたような声で綱吉は続けた。少なくとも、と。的外れになるのを恐れるように慎重に言葉を探り出し、紡ぎ出す。


「お前を恨んだりしないよ」


 それだけを言って彼の手がすり抜けていくのを悟って、リボーンは無理矢理に彼の頭に腕を伸ばした。
 そのまま腕を引き、抱きしめる。されるがままの彼はしばし戸惑ったように身動きしていたが、終いには大人しくなった。

 いっそお前のせいだと詰られれば突き放し甲斐もあっただろうに。

 穏やかな許容で清濁を飲み込む彼の懐。彼の中にある器の成長は喜ばしいが、そこに自分を入れられると嫌に不安を覚えるのだ。しかし分かっている。悪いのは自分だ。
 間接的にとはいえ、彼の大切な者を奪ったのは自分だった――― そして与えたのも、他ならぬ自分だった。
「…慰めてくれてんの?」
 珍しい、と正直に呟く彼に黙れ、と言わんがばかりに腕の力を強くした。
 彼は誤解している。
 慰めて欲しいのはこちらの方だ。
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生徒は死人への哀悼。先生は自分の感情への憐憫。










2007 0114(1) / 0205(2) / 0129(3) / 0605(4) / 0924(5)