音もなく降る雨。


 君は何を思ったのだろう。

















 部屋のドアに背を向けていたキラは、不意に開かれたそれに気付きながら、黙々と作業を続けていた。
 見ずとも相手は分かる。
 お互い、暗黙の了解。隣にあって当たり前の存在だから。

「キラ…なにしてるの?」
「こーさく」
「工作…?ってそれなに?」
「布」
「見れば分かるよそんなこと」
 作業に没頭しているせいか、端的な言葉しか返さないキラに、アスランは呆れを含んだ眼差しを向ける。
「さいほう、じゃないのか?」
「うん。こーさく」
 じゃきじゃきと白い布を切り裂いていくキラの手元を覗き込んで、アスランは首を傾げた。
「何を作ってるんだ?」
「てるてるぼうず」
「…てるてる…」
「しらない?このまえ本でよんだんだけど」
「いや、知ってるけど。何でそんなもの作ってるのかと思って」
「あした晴れるように!」


 ぱっと顔を上げたキラ。その名の通り、きらきらと擬音すら立てそうなくらいに大きな瞳に期待を映して。

 一瞬その勢いに押されかけたアスランは、すぐに我に返った。


「あした…ってべつになにもないよな?」
「うん。ない」
「なのに?」
「思いついたからいいの!」
「ふぅん…」
 一事が万事そんな調子のキラに慣れているアスランは、気のない頷きを返した。
 だがキラはそれだけでは不服らしい。
「アスランもいっしょに作ろう?」
 布と黒い油性ペンを差し出してくるキラに、アスランは戸惑った。


 大体にしてそんな過去の遺物みたいな迷信信じたところでどうなるんだ、とか。

 あの雨は人工的なものであって僕らが望んだところで止むものじゃないんだ、とか。


 言いたいことは多々あるけれども、言ったところでキラにそれを納得させるのが面倒なのも確かで。


「分かった。作ろう、いっしょに」

 笑って頷いたアスランに、キラはいっそう嬉しそうな顔を見せた。










「あの後しばらく、キラ信じてたよね。てるてる坊主」
「だって次の日ちゃんと晴れたし」
「あれは晴れの日って決まってたから」
「…その仕組みが分かった時、ホントにショックだったよ…」
「あの歳でそれを知らないキラの方に俺はショックを受けたよ」
「っアスラン!」
「はは。冗談だって」
「どうせ僕は頭弱かったよ。アスランに比べて!」
「拗ねるなって。で、今日は何するんだ?」
「えーっと…」


 人工的な雨が降る。
 音もなく降り頻る、月に降る雨を見上げるのをやめた2人は、幼い頃と変わらぬ居場所に笑いあった。
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雨企画。まだ無邪気な彼らが好きです。