staring-out game
種類はどうあれ、いつも笑っているイメージ。
口角が上がっていて、懐っこい子猫のような表情が基本性能。
困った時は苦笑い。嬉しい時は華やいで。悪戯を思い出した子供のような時もある。
そして痛そうにも悲しそうにも見える、微笑み。
どんな形であれ笑っている印象ばかりが浮かぶから、目の前の、その"笑み"というものの消えてしまった表情は正直、観察し甲斐があった。
引き結んだわけではないけれど一文字の口元は、少し間違うと拗ねてへの字に曲がりそうな雰囲気。
何よりも雄弁な瞳は、今は何も映さない深い闇の中の水面のように、穏やかというよりは凪いでいるといった方が似合う。
動かない表情に高価なアンティークドールというよりも小さな子供が抱いているテディベアを連想してしまうのは、ただ結局のところ笑っている彼ばかりを優先的に思い出してしまうからだろう。
どうしてこんなに無表情な顔を眺めていなければいけないのだろう、と片隅で思いながら今更目を離すことも躊躇われて、歩は小さく息をついた。
この状況を打開できる案は、今のところ思い浮かばない。
ならば相手がこの状況を捨てる時を待つばかりだ。
だがそう思って早数分が経つ今、悠長に待つのに些か飽き始めているのもまた事実。
いい加減どうにかしたい。そんな気持ちが最高潮に達しそうになった瞬間、歩はひとつの策を思いついた。
まずいことに、そのひとつしか思いつかなかった、とも言える。
「………火澄」
「ん?」
器用に顔の筋肉をほとんど動かさず、応じた相手に挫けそうになりながら、どうにか思いとどまって歩は続きを口にする。
それで終わりが来ることを願って。
「好きだ」
言った瞬間また負けそうな自分をどうにか抑えて歩は視線を外すことなく目の前の表情をじっくりと観察し続ける。
それは、ある意味無表情に変わりなかった。
だがどこか呆然としていて。
失敗か?
歩が再び溜息を吐いて諦めようとした瞬間、それは打ち破られた。
「ほんまに?」
「は?」
「嘘やない?」
「え…あ?なにが?」
「今の言葉」
「………?」
「嘘や言われても聞かんけど」
にっこり、と笑った相手に頭によぎったのは『まずい』という文字。
何か自分は判断を誤った。もしくは大いに読み間違えた。
こんな"勝ち"を予測していたのではなかったはずなのだ。
「俺としては、」
「うん?」
「大笑いして欲しい類の冗談なんだが」
「真顔で言うそっちの方がギャグや」
「そうか?」
「せや。そんな笑えへん冗談やめ?」
「笑ったじゃないか」
「種類がちゃう。うっかり喜んで損したやないか」
「?まぁ…なんであれ、俺の勝ちだな」
「う。自身あったんやけどなー…にらめっこ」
「勝手に勝負吹っかけてきて勝たれてもな」
「次は絶対勝つ!」
「もうやらないって…」
ようやく視線を剥がした歩はこれ以上面倒な勝負を挑まれないようにと、キッチンへ逃げ出した。
4万打感謝文その3。