それは躊躇いに滲んでしまった
「あのショコラティエも真っ青なチョコレートのお返しがそれぇ?」
非難めいた思いを端々に込めて、理緒は香介の手元を覗き込んだ。
「…別にお前が貰うわけじゃないだろ」
「そーだけどさー…」
香介の手の中で弄ばれている小さな紙袋。理緒はそれに見覚えがあったので容易く中身を推測出来た。
それは学校近くにある雑貨屋さんの物で、きっと中身はピアスか何かだ、と。
「せめて指輪とかならねー…」
「…不自然だろ」
「ちなみにどんなの?」
「艶消しリングと、黒い石のついたヤツ」
つっても安いのな、と香介が付け足す。
「色気無い」
「あってどうする」
「この際だからばしっとプロポーズしちゃえばいいのに」
「無茶言うな」
げんなりとした表情で香介は理緒の言葉を一蹴する。
確かに今のは誇張した表現だけど。理緒は唇を尖らせた。プロポーズとまではいかなくても、せめて告白くらい、と胸中で呟く。
「なんかもっとインパクトあるものとかー…本人の欲しいものとかは?」
「あいつの今欲しいもん、桐箪笥付きの万能包丁だぞ?」
「うーん…」
さすがは小学生の頃から主夫業を一手に引き受けている苦労人だ。もっと面白い物を欲しがってくれればいいのに。
唇に手を当てて真剣に悩みだした理緒の頭に手が触れる。見上げると香介が苦笑していた。
「いいんだよこれで。余計な事考えんな」
釘を刺すような言葉だったが、下から覗いたその表情はもっと別の事を雄弁に語っていた。
そんな理緒の視線に気付いたみたいに、香介はふい、と視線を逸らす。
「…意気地なし」
ぽろりと零れた言葉は香介に届かない程の小さな非難。
好きなくせに、そんなに苦い顔してるくせに。
余計なお世話だと知っているけれども、そんな横顔を見せるくらいならさっさと行って撃沈でもなんでもしてしまえばいいのに。
1月も間が空くからいけないのだ。どうしてバレンタインのお返しのホワイトデーなんて作ってしまったんだろう。あの日のすぐ後の香介だったら、勢いのままに告白する事も出来たかもしれなかったのに。
気持ちを整理して準備するに余りある1ヵ月。言い訳を用意する為の期間にも充分すぎた。
「…こーすけ君だから諦めたのになぁ…もー…」
「なにぶつぶつ言ってんだ?」
「なんでもなぁい!」
もう夏までにくっつかなかったら、慈悲心なんて捨て去って自分がアタックしてしまおうと心に決めたことなどおくびにも出さず。べ、と小さく舌を出して理緒はいつも通りの顔でこちらを向いた香介から視線を逸らした。
"覗いた横顔" :
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白い日。
続かない。いや、続かせたい気もしますが。
070309