prologue - 1st day
とある平穏な休日。
義弟に、耳と尻尾が生えました。
白い病室のベッドの上にぺたんと座っている少年を見つけた時、まどかはあまりのことに絶句した。叫ばなかっただけまだマシだ。
呆然としている間にいつもなら大人しく横になっているはずの、というか起き上がる事が少々困難なはずの義弟が、まどかに気付いてベッドから降りようと小さな身体を簡単に動かし始めた。
そう、"小さな"身体。
一般的な男子高校生の身体が、何故だか少々縮んで見える上に。
「………ね、こ?」
耳と、尻尾が。
スリッパを無視して床に着地した彼は、とことこと近寄ってきて、まどかを見上げている。その姿にどうしようもない保護欲が湧くと同時に、目の眩むような思いがする。
自分の夫の阿呆らしさに。
さりげなく義弟の頭を撫でてしまっている状態で言うのもなんだが、今は傍に居ない彼が戻ってきた時にはこの病室に血が流れるかもしれないとまどかはひきつった顔の下で密かに熱く拳を握り締めた。
「おーい歩経過はどう…っ」
弟の病室をの扉を開いたはずが、そこは地獄の一丁目だったらしい。
まだ部屋に入りきらぬうちに無言で仕掛けられた蹴りは容赦なく清隆を吹っ飛ばし、廊下に生きる屍が一体できあがった。
「ま、まどか…技名も言わずに技を繰り出すのは卑怯者のやることだとウサたんの敵役も言ってるぞ…?」
「そんな微妙に古くてマニアな話は知らないわ」
きっぱりと言い切った妻に、起き上がった清隆は大仰に嘆いて見せようかと思ったが、そのまどかの背後に控える少年に気付いて気を取り直した。
「ああ、経過は順調か」
「なにが順調!」
「起き上がれるようになっているじゃないか」
「もっと別の点に着眼すべきでしょ!」
なんなのこの耳と尻尾と体格は!!
びしぃ!と指を差された方の歩はと言えば、一連のオーバーリアクションに呆れているのか怯えているのか一歩下がり気味の体勢で口をしっかり閉ざしている。
「とち狂ったブレチルの仕業かもとか、反抗的なハンターサイドの人間の仕業かもとかそういう可能性は考えないわけかい?愛するまどかさん」
「こんな馬鹿らしい真似する人が貴方の他にいる訳ない事ぐらい分かるわ!」
「愛のなせる業か」
「その通りよ!」
「ふむ…他の世界にある某薬品の効果が面白そうだったから、少々改良して使ってみたんだが」
「あっさり別の世界の物を持ち出さないで!しかもなんで猫!」
「可愛かろう」
「可愛いけど!!」
お互い果てしなく自分に正直である。
「まぁ問題点は追々調べるとして…」
清隆はじっと不安げな視線を向けてくる弟を軽々と抱き上げた。
本能的に何か訴えかけるのか、逃げようとする歩を制してにこりと笑う。
「まずは可愛がるとしよう」
それが目的か、と再び固めた拳をまどかが繰り出すのも時間の問題。
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日記より引き上げ。改めて見るとしんどいな…。
某薬品は多分A○TX48○9。文中に置くと微妙なので。笑