しろとくろ
「猫?」
「うん。二匹」
仔猫があんまり可愛いから譲ってもらったんだけどね。
そう話す顔がもうちょっと緩み気味なのは、無類の猫好きである友人のカノン。
「でもあんまり可愛がりすぎてアイズが拗ねちゃって」
緩んでいた顔がさらに緩んだ。
「惚気は謹んで遠慮申し上げますー」
「だからさ、浅月に泣く泣くその子らを預けようって訳さ」
不平は鮮やかにシカトされ、カノンはにこやかにそう先を続けた。
「なら預けんなよ」
「独り暮らしは寂しいかな、と思う僕の親切心」
心底いらない親切だったが、まぁ困っているのは確かなんだろうし短い期間なら、と曖昧に香介は頷いた。
「っても、世話の仕方なんて知らねーぞ?」
「大丈夫。二人とも賢いから」
そう言ってカノンがその2匹を連れてきたのだが。
黒い耳に黒い尻尾の比較的大きな猫と、その猫にしがみついて引きずられるようにのろのろと付いてくる白耳白い尾の猫。
黒い方は警戒心のせいか僅かに顔を顰めて香介を見ているが、白い方は顔を黒い方の背に埋めているので表情も窺えない。
なんか前途多難じゃないか?
「コレが前に話した浅月香介」
「"コレ"扱いかよ」
「で、浅月。この二人が今話した子達だよ」
扱いの差にちょっと涙が滲みそうだが、賢明に香介は耐えた。カノンにこれ以上抗議したところで無駄は見えている。どころか反撃が恐い。
「えーっと…」
「俺がクロ、でこっちがシロ、でいい」
香介の惑いを悟ったように黒い方
――― クロがそう答えた。そして自分の背後にへばりついている、シロ、の肩を優しく叩く。
「シロ」
「、ん」
クロにしっかりとしがみついたまま、おずおずと顔を上げたシロは、どうにか香介と目が合うところまで顔を出した。
「し…シロ、です」
「ん。よろしくな、シロ。クロも」
ぽすりとシロの頭を撫でて、香介は両方にどうにか笑顔を向けた。多少苦笑めいているのは許容してもらうとして。
だがそれでどうにか白い方の緊張は解けたのか、クロを掴む手が僅かに緩んで嬉しそうに笑ったシロは素直に頷いた。
それを見てクロの方も少しだけ顔を緩めるのが分かる。あ、意外と可愛いかも?
「じゃあ、よろしくね、浅月」
「おう」
「下手なことしたらどうなるかは肝に銘じておいて」
「………おう」
カノンの満面の笑みにどうにか頷いた香介は、この幼い二匹がまだ目の前の飼い主の色に染まっていないことを切に願った。
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多大な感謝をゆむ姫へ。