あおいよる
カーテンの引かれた部屋の中は充分に暗い。けれど夜目の利く自分にとってはそれ程の障害にはなりえない。
隣りで眠る弟のあまりにも呑気な寝顔をしばらく眺めてから、クロはひとつ長い息を吐いた。
眠れない。
夜行性だとかそう言うことじゃない。その証拠に弟は昼間遊び疲れた分ぐっすりだ。要は運動量の違いか。それも何か違う、と思いながらクロは床に滑り降りた。起こさないように、という配慮などしなくてもきっとシロは起きないだろうけれど、クロは気遣いを怠らなかった。滑らかな動作は夜の静寂さえ破らず、弟は身じろぎさえしない。
そのまま外にでも出ようかどうか。一瞬の逡巡は、すぐに霧散した。
「クロ?」
「………。」
なんで起きているのか、どうして声をかけたのか。別に訊きたいわけでもなかったクロは伸びてきた手を黙って弾いた。
「ぃて。どーした?ご機嫌斜めだな」
いや、お前いい時もそうないか。続いた言葉があながち間違いでもなかったのでクロはまたも沈黙した。
「ちょーどいいや。俺も眠れねーからちょっと付き合え」
さっき弾かれた手をもう一度伸ばして今度はあっさりと香介の手がクロを捕まえた。基本的に体重が軽い分、案外楽に持ち上げられてしまうので無駄な抵抗はしなかった。騒いで万が一にでも弟を起こすのは忍びない。
ひんやりとした香介の服の感触と、捕まえる手のゆるいぬくみ。その温度差が、さっきまではまるで感じなかった眠気を不意にもたらしたようだ。クロは込みあがる欠伸を必死で噛み殺して香介の腕に爪を立てた。「だからいてーって」という小声の香介の文句が聞こえる。それで眠気は晴れずとも、多少クロの気は晴れた。
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