やまい



――― 、」
 ぎゅう、と締め付けられるような声で一言。
 うわ言のようなそれは自分以外、本人だって聞いていなかったのに自分は聞いてしまった。
 これはきっと病気なんだ。シロは思った。



 湿気の篭る梅雨時。部屋の隅で小さく纏まっている白い方を見つけた香介は珍しさに目を瞬いた。
 このところ低気圧のせいかだるそうにごろごろとしていたのは主にクロの方で、シロはいたって元気そうに見えたのだが。普段が普段なだけに少し心配になって、香介はシロを上から覗き込んだ。
「シロ?」
「こー…」
 ゆるり、と顔を上げたその顔は、泣き出しそうだった。
「?どうした…」
「クロが、」
「喧嘩でもしたのか?」
「違う。フジのヤマイなんだって」
「は?」

 富士。藤。不治。ああコレだ。不治の病。

 頭の中で変換して、香介は顔を顰めた。
「クロが?誰がんなこと」
「こういう、ふたつ結びの、女の子が」
 理緒か。シロの示した特徴に香介はすぐに該当者を弾き出す。本当に彼女はろくな事を教えやしない。
「クロがおかしい、って説明したら」
「…おかしい?」
「『それはお医者様でも草津の湯でも治せない、不治の病なんだよ』って」

 …そのフレーズはすげぇ聞き覚えがあるぞ。

「フジのヤマイって治らない病気のことだろ?こーすけも治せない?」
「いや、それは治す治さないの問題じゃなくてだな…というか本人の意思でもどうにも出来ないようなものだ、から…つーかそれマジか」
 あいつに恋とか愛とかいまいち結びつかないんだが、と香介は言い淀む。しかしシロは言われた言葉の意味が分からない、とでも言うように僅かに首を傾げただけだった。



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070626