青空の行方
 - 歩、理緒、香介

不可思議な静寂
 - 香介、歩



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青空の行方
「あーぁした天気になーぁれ!」

 のんびりほのぼのとした声とは裏腹に、ひゅん!と風を切った足の先から唸るような風切り音を発して靴が前方斜め上に飛んでいった。
「ぉぁいたぁッ!!」
「…ナイスヒット」
 障害物にぶち当たってぼとり、と道に落ちた靴は見事に『曇り』を示していた。器用なことだ。
「りーおー…てめーなぁ…」
「ゴメンってこーすけ君」
 隣りで見ていた歩からすれば狙ったんじゃないかとしか思えない程、飛んでいった靴はキレイに香介の背中の更にど真ん中にぶつかった。正にクリーンヒット。少し先を歩いていた香介は相当痛そうに背を擦りながら理緒に恨めしげな文句を吐き出した。
 悪気はないんだよ?と加害者は首を傾げる。そりゃ悪気はないんだろうな、と歩は楽しそうに言い争う彼らではなく空を見上げて思った。
 靴の予報とは反して、薄く細い雲がパノラマの端に残るだけの夕焼け空は温かな橙。端から少しずつ紫に侵される空模様から明日も洗濯物がよく乾きそうだとのんびり考えた所で、歩は道に放置されていた可愛い靴の傍まで辿り着いた。

「どうぞ、お嬢さん」

 まだ言い合っている2人の元まで戻ってきた歩が地面に靴を差し出すと、驚いたと言うように顔を上げた理緒が次いで嬉しそうに笑う。
「明日もきっと晴れですね」
 今は表を向いた靴。それは占いの結果ではないだろうけれど、反駁する理由もなく歩はただ素っ気無く相槌を打った。
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拍手お礼。靴は案外凶器になると思う。












不可思議な静寂
 闇の中から唐突に引っ張り出されたような覚醒だった。
 午後の光が溢れる部屋の眩しさに目を何度も瞬くうちに、背に当たる覚えのない感触に気づく。
 確かめようと身じろぐと、背のそれも少し動いた。

「起きたか」

 まだ今ひとつ反応の鈍い頭が、どうにかその声の主を記憶の中から探り当てる。だが該当人物を発見したところで歩は自分の現状を理解できなかった。
「不自然なとこで寝てたから、俺が親切にもソファに移動させてやったんだ」
 説明されてもさっぱり思い出せない。どこで、と問えばキッチン、という答えが返ってきた。確かに寝るには不自然すぎる。というかきっとその状態は睡眠とは言わないだろう。
 とは言え、肩から足先まで薄手の毛布に包まれ、少々硬い背凭れは恒常的な体温で自分の弱った体を温めてくれている。嬉しくはないが有難い処置だとも思う。
「…礼を言うべきなんだろうな」
「そこは素直に『ありがとうございました』だろ」
「アリガトウゴザイマシタ」
「誠意が足んねーぞ」
「精一杯だ」
「貧しい心だな」
 その通りなのでそれ以上の無駄な反言は止めておいた。
 長く彼の肩を借りているのも悪いので起き上がろうとしてみたが、絡みつく毛布と未だ残る虚脱感が如何ともしがたい。申し訳程度にもがく歩に、背凭れ代わりを勤める彼は実に素っ気無く「無理すんな」と告げる。
「こっちももう気遣われても虚しいぐらい凝り固まっちまってるからな」
 気負いの無い、どちらかと言えば皮肉げな言葉が続く。歩もそれを無理に突っぱねる程馬鹿ではない。
「…そういう所はお兄ちゃん、って感じだな」
「やめろ俺はお前の兄貴なんて不吉なポジション死んでも嫌だ」
「安心しろ。俺も嫌だ」
 マイナス方向での意見の一致を見て、今度こそお互いに黙りこむ。落ち着かないわけではないが決して安心感も湧かない空気の中、歩は再び襲ってきたブラックアウトの予感に目を閉じた。
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カプじゃなく。なのに距離が近くなってしまった二人。(お互い不本意な感じで)
最近こういうのが好きです。書くの。










2007 0114(1) / 1023(4) /