熱い、とか、痛い、とか。
 必死すぎてもう感覚がなくなってきてる。霞んだ視界にまた閃光が割り込んで、視覚が奪われる。聴覚や視覚に異常を与えるそれは軍なんかで使われる対テロ用の武器…より性質の悪い物に思えるのだが綱吉の気のせいだろうか。普通のスタングレネードより麻痺性が高い。少なくとも丸腰の人間一人の為に持ち出す物じゃない。まあ綱吉を完全な丸腰というのも間違いではあるが。
 それ一個にいくらかかるんだろう開発費高そうだ、と余計な心配をしつつ火薬の臭いに身を縮める。
 右腕を自負する彼のダイナマイトのおかげで爆発物には慣れたつもりだったけれど、あんな無茶苦茶なやり方で、それでもやっぱり自分は一応かばわれていたわけだ。こんな状況ながら感慨深い。
「もーいい加減諦めてくれないかなぁー…」
 出口に向かっているつもりではあるが、なにぶん勘だけを頼りにしているので今ひとつ心許ない。溜息が漏れる。
 目的は逃げ出す事だ。もしくは、一秒でも長く生き延びる事。生きて帰らなければ助けられなかった人達への謝罪も弔悼も出来ない。
 きっと残してきた人達が自分の不在に気付いて殺気立ってやってくる時は、そう遠い事ではないだろうからせめてそれまで。その殺意の何割かが自分に向かっているのだと思うと恐ろしくて別の意味で逃げたくもなるが。

 それにこんな所でランボ死なせる訳にはいかないもんな。

 震える声で、少し的外れなことを叫んだ彼の言葉に嘘はなかっただろうけど。本当はただ彼が自分を見捨てられないのだろう。優しい子供。見えない姿を脳裏に思い描く事は簡単だった。泣きそうな顔で、でも必死でそれを堪えて決死の覚悟を口にする。成長したなあ、あのただただ馬鹿な振る舞いばかりを繰り返した幼い子供が。親のような心境で思いながら綱吉は勘で動くままに手足を動かす。撃たれた足からの出血は見えていないせいか気もならない。
 重火器に素手、と考えると恐くもなるが、ここまでボロボロだともう考えている余裕も無い。きっと足以外も撃たれてるんだろう。見えなくて良かったのかもしれない。ふ、と口元を緩めた瞬間に脊髄に警告が走る。遅れて、体が熱風に吹き飛ばされた。また爆発物。
 いい加減この家の中も酷い有様だろう。床(多分)を勢い良く転がった体は何か障害物にぶつかってようやく止まった。起きなきゃ、と手をついた綱吉はグローブ越しに嫌な感触を覚えて顔を顰めた。近くに窓でもあったのかガラス破片の上を転がってきたらしい。がちゃ、と壊れ物が掌の下で擦れる。
 いくつか刺さったかな。あまり危機感は覚えずに足に力を入れたら何かに滑った。靴裏で確めるとぬるりとした感覚。まず思い当たるのは血液で。誰のだろう、自分のだろうか、と想像しかけて止めた。見えないってやっぱり不便だ。さっきとは間逆の事を考えているうちに足から力が抜けた。
「嘘だろ…」
 かく、と今までどうやって立っていたのかを忘れてしまったかのように足は言う事を聞かない。指先は小刻みに震えだし、じわじわと頭の中まで混濁していくのが分かる。
 出血何リットルで死ぬんだって言ったっけ、ランボ。お前の方が物知りなのちょっと腹立たしいな、と手をついた床のガラスを押し割る。このくらいは出来るけれど、これ以上はもう無理か。
 ああこんな所でこんな死に方するなんて。リボーンとか骸とか、地獄まで追いかけてきて説教しそうだ。ねちねちと。思うと本当に出来そうで怖い。嫌だなあ死んだ後くらいゆっくり寝かせといてよ、ここしばらくまともな睡眠取れてないしさ、休みたいっていうとリボーンが永眠させてくれそうな眼するから。ああいっそあそこで永眠させてもらえばよかったのかも。
 血液で殆どを流してしまったせいか、涙を流す水分さえ自分には残されていないらしい。喉渇いたな、とランボ無事かな、の二つだけを思って綱吉は瞼を閉じた。

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実際は失血1リットルもすればヤバイと思います、よ。




070629