... 04の少し後の話
人の服を掴んだまま電池切れした機械のようにぷっつりと意識を失くした綱吉。だから雲雀は一瞬、彼が今度こそ本当に死んでしまったのかとも思ったが、僅かに上下する胸元の動きに気付き安堵の息を吐く。
廊下の隅で崩れ落ちている彼を見つけた時も同じ事を思った。名を呼んで、呼んで、呼んで。ようやく瞼が開いた時には、何故だか分からないが彼が怪我をしている事を忘れて殴りそうになった。今にしてみれば一発くらい殴っても構わなかったかもしれない。次に彼が起きたら是非そうしよう。雲雀は独り頷く。
しかし今の彼は全身、特に手足に色濃く緋色が絡んでいて、彼のものか他者のものかの区別も付かない状態だ。それでもこの様子では彼自身の出血が酷いのは確かだろう。まだ乾ききらないそれは雲雀の服にもじわりじわりと色を移し始めている。
医療班が着く前にどこか落ち着ける場所で止血をした方がいいのか。しかし雲雀のいるあたりはガラス破片や爆発物で抉られた壁の残骸などが散らばっていて、再び彼を下ろすには心許ない。
悩みつつ歩を進めていると、通りかかった階段の上から不意に声が降ってきた。
「ボンゴレ!」
一瞬で張り上げた殺気の糸に絡められた相手は身を竦めた。しかし、彼は綱吉の状態にさあっと顔色を青に変えてすぐに上から降りてきた。
「近付くな」
「なんで!」
問いながらも彼は間合いの外で足を止めた。殺気立っている今の状態で近付かれるのが酷く不愉快だから、という説明はせずに雲雀は今にも泣きそうな顔でそれでも睨む少年を見下ろす。
「誰?」
「えぇ!?俺だって守護者ですよ!?雷の!」
「知らない」
「ヒバリ」
泣きそうな顔が真実泣き崩れたところで横合いから声がかかった。聞きなれた声の方向を見れば、医療班をつれた子供が足元の危うさなど気にしない様子でひょいひょいとこちらに近付いてきていた。
「お前も単独行動は控えろって言っといたハズだぞ?」
「先に破ったのはボスだよ。見習ったまでだ」
雲雀に抱き上げられている綱吉を覗き込んだリボーンは呆れたように息を吐くと医療班にその身を頼んだ。
「一応致命傷はないみてーだな。出血は傷見ないことには分からねーが」
「で、でも。ツナ、」
「なんだ格下。いたのか」
「うぅぅぅ…が、ま、ん…」
さり気なくリボーンの足が崩れ落ちたままの少年の肩を踏んでいるが、少年は撥ね退ける気力も無さそうに項垂れた。
「ツナ、目と耳、やられてたみたいで、」
「何?」
「足も、血が、たくさん、出て」
「…馬鹿が」
「よくもまあそれで生きてたね」
「致命傷狙われると直感で勝手に避けるからな。でも末端に当たる分は頓着してねーだろうから問題はそっちだな」
ち、とひとつ舌打ちをしたリボーンは肩でくつろぐカメレオンに視線を流して口元を歪めた。にやり、と音がしそうなくらいの悪人笑い。
「またじっくり扱くか」
「僕も手伝うよ」
楽しそうに呟く二人の声に、哀れな少年は相変わらず肩を踏まれたまま意識の無い綱吉の未来を哀れんでさらなる涙を零していた。
Don't cry, there's a good boy.
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蛇足
(お前がいい子なのは分かってるから、泣くなって)